GLP-1受容体作動薬一覧と作用機序の解説と比較

GLP-1受容体作動薬一覧と作用機序の解説と比較

GLP-1受容体作動薬の一覧と作用機序

GLP-1受容体作動薬の基本情報
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血糖値コントロール

インスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制により血糖値を適切に調整します

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投与頻度の違い

1日2回から週1回まで、様々な投与スケジュールの製剤があります

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体重減少効果

食欲抑制作用により、多くの患者さんで体重減少が認められます

GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病治療において重要な位置を占める薬剤群です。これらは、インクレチンホルモンの一種であるGLP-1(Glucagon-like peptide-1)の作用を模倣または増強することで血糖コントロールを改善します。本記事では、現在日本で使用可能なGLP-1受容体作動薬の種類、特徴、および臨床的な位置づけについて詳しく解説します。

 

GLP-1受容体作動薬の作用機序と血糖降下作用

GLP-1受容体作動薬は、生体内のGLP-1ホルモンと同様の作用を示しますが、DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)による分解に抵抗性を持つよう設計されています。その主な作用機序は以下の通りです。

  1. 膵β細胞に作用し、血糖依存的にインスリン分泌を促進
    • 高血糖時のみインスリン分泌を促すため、低血糖リスクが比較的低い
  2. 膵α細胞からのグルカゴン分泌を抑制
    • 肝臓からの糖放出を抑え、空腹時血糖値の上昇を防止
  3. 胃排出時間の遅延
    • 食後の急激な血糖上昇を抑制
  4. 視床下部への作用による食欲抑制
    • 摂食量減少による体重減少効果

これらの作用により、GLP-1受容体作動薬は食後および空腹時血糖値の両方を改善し、HbA1cの低下をもたらします。また、体重減少効果や心血管イベントリスクの低減など、糖尿病治療において有益な付加的効果も報告されています。

 

GLP-1受容体作動薬の短時間型と長時間型の分類と特徴

GLP-1受容体作動薬は、作用持続時間によって「短時間作用型」と「長時間作用型」に分類されます。それぞれの特徴を理解することで、患者さんに適した薬剤選択が可能になります。

 

短時間作用型GLP-1受容体作動薬

  • 作用持続時間:24時間以内
  • 特徴:食後血糖値コントロールに優れる
  • 代表的な薬剤。
    • エキセナチド(バイエッタ):1日2回投与
    • リキシセナチド(リキスミア):1日1回投与

    長時間作用型GLP-1受容体作動薬

    • 作用持続時間:24時間以上
    • 特徴:空腹時血糖値コントロールに優れ、投与回数が少ない
    • 代表的な薬剤。
      • リラグルチド(ビクトーザ、サクセンダ):1日1回投与
      • デュラグルチド(トルリシティ):週1回投与
      • セマグルチド(オゼンピック、リベルサス):週1回投与(注射)または1日1回投与(経口)
      • チルゼパチド(マンジャロ):週1回投与

      短時間作用型は食後高血糖の改善に優れ、長時間作用型は空腹時血糖値の改善に優れるという特性があります。また、投与頻度の違いは患者さんのアドヒアランスに影響するため、生活スタイルや治療目標に合わせた選択が重要です。

       

      GLP-1受容体作動薬一覧と各薬剤の投与方法・用量

      現在日本で使用可能なGLP-1受容体作動薬の詳細情報を表にまとめました。薬剤選択の際の参考にしてください。

       

      一般名 商品名 投与頻度 投与方法 用量 特徴
      エキセナチド バイエッタ 1日2回 皮下注射 5-10μg 2024年9月販売中止予定
      リキシセナチド リキスミア 1日1回 皮下注射 10-20μg 2025年4月頃販売中止予定
      リラグルチド ビクトーザ 1日1回 皮下注射 0.3-0.9mg 日本初のGLP-1受容体作動薬
      リラグルチド サクセンダ 1日1回 皮下注射 最大3.0mg 抗肥満薬として承認
      デュラグルチド トルリシティ 週1回 皮下注射 0.75-1.5mg 使い捨てペンデバイス
      セマグルチド オゼンピック 週1回 皮下注射 0.25-1.0mg 強力な血糖降下・体重減少効果
      セマグルチド オゼンピック 週1回 皮下注射 2.0mg 高用量製剤
      セマグルチド リベルサス 1日1回 経口 3-14mg 初の経口GLP-1受容体作動薬
      セマグルチド ウゴービ 1日1回 皮下注射 0.25-2.4mg 抗肥満薬として承認
      チルゼパチド マンジャロ 週1回 皮下注射 2.5-15mg GLP-1/GIP二重作動薬

      注意点として、バイエッタは2024年9月に販売中止予定、リキスミアも2025年4月頃に販売中止予定です。また、ビデュリオン(エキセナチドの週1回製剤)は既に販売中止となっています。

       

      薬価については、各製剤によって異なりますが、例えばトルリシティ皮下注0.75mgアテオスは2,749円/キット、オゼンピック皮下注1.0mgSDは5,469円/キット、リベルサス錠14mgは488.5円/錠となっています(2025年3月時点)。

       

      GLP-1受容体作動薬の経口薬と注射薬の違いと選択基準

      GLP-1受容体作動薬には注射薬と経口薬があり、それぞれに特徴があります。現在、経口GLP-1受容体作動薬はセマグルチド(リベルサス)のみです。

       

      注射薬と経口薬の比較

      特性 注射薬 経口薬(リベルサス)
      生物学的利用率 高い 低い(約1%)
      用量 比較的少量 高用量(最大14mg)
      服薬条件 食事の有無に関わらず投与可 空腹時に水のみで服用(食前30分以上)
      投与の容易さ 注射手技が必要 錠剤の服用のみ
      効果の安定性 安定 食事や胃内pHの影響を受ける可能性あり
      副作用プロファイル 注射部位反応あり 注射部位反応なし

      経口薬であるリベルサスは、注射に抵抗がある患者さんに適していますが、以下の点に注意が必要です。

      1. 服用条件が厳格:空腹時(食前30分以上)に水のみで服用する必要があり、食事や他の薬剤との間隔を空ける必要がある
      2. 吸収率が低い:特殊な吸収促進剤(SNAC)を含有しているが、それでも生物学的利用率は約1%
      3. 高用量が必要:注射薬と同等の効果を得るために高用量(最大14mg)が必要

      一方、注射薬は生物学的利用率が高く、効果が安定しているという利点があります。週1回投与製剤(トルリシティ、オゼンピック、マンジャロ)は投与回数が少なく、アドヒアランス向上に寄与します。

       

      患者さんの好み、生活スタイル、治療目標に応じて適切な剤形を選択することが重要です。

       

      GLP-1受容体作動薬とGIP/GLP-1二重作動薬の最新比較研究

      近年、GLP-1受容体作動薬に加えて、GIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)受容体にも作用する二重作動薬が登場しています。代表的な薬剤がチルゼパチド(マンジャロ)です。

       

      GLP-1単独作動薬とGIP/GLP-1二重作動薬の比較
      GIP/GLP-1二重作動薬であるチルゼパチドは、以下の特徴を持っています。

      1. 強力な血糖降下作用:GLP-1とGIPの両方の作用により、より強力な血糖コントロールが期待できる
      2. 顕著な体重減少効果:GIPは脂肪細胞に作用してレプチン分泌を促進し、GLP-1の食欲抑制作用と相乗的に働く
      3. 心血管リスク低減効果:SURPASS-4試験では心血管イベントリスクの低減が示唆されている

      SURPASS-CVOT試験では、チルゼパチドの心血管アウトカムに対する効果が検証されており、その結果が注目されています。

       

      また、SURPASS-2試験ではチルゼパチド(5mg、10mg、15mg)とセマグルチド1mgを直接比較し、チルゼパチドの高用量(10mg、15mg)がセマグルチドよりも優れたHbA1c低下効果と体重減少効果を示しました。

       

      SURPASS-2試験の詳細結果はこちらで確認できます
      ただし、GIP/GLP-1二重作動薬は比較的新しい薬剤であり、長期的な安全性や有効性については今後のデータ蓄積が必要です。また、薬価も比較的高額であることから、費用対効果も考慮した薬剤選択が求められます。

       

      GLP-1受容体作動薬の副作用と対策および患者指導のポイント

      GLP-1受容体作動薬は有効性の高い薬剤ですが、特有の副作用があります。薬剤師として患者さんに適切な情報提供と指導を行うことが重要です。

       

      主な副作用と発現頻度

      1. 消化器症状
        • 悪心・嘔吐:10-40%
        • 下痢:5-20%
        • 便秘:5-15%
        • 腹部不快感:5-10%
      2. 注射部位反応(注射薬の場合)
        • 発赤、かゆみ、腫れ:1-10%
      3. 膵炎
        • 急性膵炎:0.1-1%未満(稀だが重篤)
      4. 低血糖
        • 単独使用時:稀(血糖依存的にインスリン分泌を促進するため)
        • SU薬やインスリンとの併用時:5-15%

      副作用対策と患者指導のポイント

      1. 消化器症状への対策
        • 少量から開始し、徐々に増量する(用量漸増)
        • 少量頻回の食事摂取を勧める
        • 食事の際はゆっくり時間をかけて食べる
        • 消化器症状は通常、使用開始から数週間で軽減することを説明
      2. 注射部位反応の軽減
        • 注射部位のローテーション(腹部、大腿部、上腕部など)
        • 注射前に薬液を室温に戻す
        • 注射手技の確認と指導
      3. 膵炎リスクへの注意
        • 膵炎の症状(持続する強い腹痛、背部痛、嘔吐など)について説明
        • 症状出現時は直ちに医療機関を受診するよう指導
        • 膵炎の既往歴がある患者への使用は慎重に
      4. 低血糖への対策
        • SU薬やインスリンとの併用時は、それらの減量を検討
        • 低血糖症状と対処法の説明
        • 血糖自己測定の重要性の説明
      5. その他の指導ポイント
        • 体重減少効果があることの説明(過度な期待を避ける)
        • 保管方法の説明(未使用の製剤は冷蔵保存)
        • 使用中の製剤の室温保存可能期間の説明
        • 廃棄方法の説明(医療廃棄物として適切に処理)

      これらの副作用対策と患者指導を適切に行うことで、GLP-1受容体作動薬の忍容性が向上し、治療の継続性が高まります。特に治療開始初期の指導が重要であり、患者さんの不安や疑問に丁寧に対応することが求められます。

       

      GLP-1受容体作動薬の保険適用条件と肥満治療への応用

      GLP-1受容体作動薬は、糖尿病治療薬としての保険適用に加え、一部の製剤は肥満症治療薬としても承認されています。それぞれの保険適用条件と肥満治療への応用について解説します。

       

      糖尿病治療薬としての保険適用条件
      2型糖尿病患者に対しては、以下の条件で保険適用となります。

      1. 食事療法・運動療法に加えて経口血糖降下薬やインスリン製剤を使用しても、十分な効果が得られない場合
      2. 食事療法・運動療法に加えて経口血糖降下薬を使用