
GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病治療において重要な位置を占める薬剤群です。これらは、インクレチンホルモンの一種であるGLP-1(Glucagon-like peptide-1)の作用を模倣または増強することで血糖コントロールを改善します。本記事では、現在日本で使用可能なGLP-1受容体作動薬の種類、特徴、および臨床的な位置づけについて詳しく解説します。
GLP-1受容体作動薬は、生体内のGLP-1ホルモンと同様の作用を示しますが、DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)による分解に抵抗性を持つよう設計されています。その主な作用機序は以下の通りです。
これらの作用により、GLP-1受容体作動薬は食後および空腹時血糖値の両方を改善し、HbA1cの低下をもたらします。また、体重減少効果や心血管イベントリスクの低減など、糖尿病治療において有益な付加的効果も報告されています。
GLP-1受容体作動薬は、作用持続時間によって「短時間作用型」と「長時間作用型」に分類されます。それぞれの特徴を理解することで、患者さんに適した薬剤選択が可能になります。
短時間作用型GLP-1受容体作動薬
長時間作用型GLP-1受容体作動薬
短時間作用型は食後高血糖の改善に優れ、長時間作用型は空腹時血糖値の改善に優れるという特性があります。また、投与頻度の違いは患者さんのアドヒアランスに影響するため、生活スタイルや治療目標に合わせた選択が重要です。
現在日本で使用可能なGLP-1受容体作動薬の詳細情報を表にまとめました。薬剤選択の際の参考にしてください。
一般名 | 商品名 | 投与頻度 | 投与方法 | 用量 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|
エキセナチド | バイエッタ | 1日2回 | 皮下注射 | 5-10μg | 2024年9月販売中止予定 |
リキシセナチド | リキスミア | 1日1回 | 皮下注射 | 10-20μg | 2025年4月頃販売中止予定 |
リラグルチド | ビクトーザ | 1日1回 | 皮下注射 | 0.3-0.9mg | 日本初のGLP-1受容体作動薬 |
リラグルチド | サクセンダ | 1日1回 | 皮下注射 | 最大3.0mg | 抗肥満薬として承認 |
デュラグルチド | トルリシティ | 週1回 | 皮下注射 | 0.75-1.5mg | 使い捨てペンデバイス |
セマグルチド | オゼンピック | 週1回 | 皮下注射 | 0.25-1.0mg | 強力な血糖降下・体重減少効果 |
セマグルチド | オゼンピック | 週1回 | 皮下注射 | 2.0mg | 高用量製剤 |
セマグルチド | リベルサス | 1日1回 | 経口 | 3-14mg | 初の経口GLP-1受容体作動薬 |
セマグルチド | ウゴービ | 1日1回 | 皮下注射 | 0.25-2.4mg | 抗肥満薬として承認 |
チルゼパチド | マンジャロ | 週1回 | 皮下注射 | 2.5-15mg | GLP-1/GIP二重作動薬 |
注意点として、バイエッタは2024年9月に販売中止予定、リキスミアも2025年4月頃に販売中止予定です。また、ビデュリオン(エキセナチドの週1回製剤)は既に販売中止となっています。
薬価については、各製剤によって異なりますが、例えばトルリシティ皮下注0.75mgアテオスは2,749円/キット、オゼンピック皮下注1.0mgSDは5,469円/キット、リベルサス錠14mgは488.5円/錠となっています(2025年3月時点)。
GLP-1受容体作動薬には注射薬と経口薬があり、それぞれに特徴があります。現在、経口GLP-1受容体作動薬はセマグルチド(リベルサス)のみです。
注射薬と経口薬の比較
特性 | 注射薬 | 経口薬(リベルサス) |
---|---|---|
生物学的利用率 | 高い | 低い(約1%) |
用量 | 比較的少量 | 高用量(最大14mg) |
服薬条件 | 食事の有無に関わらず投与可 | 空腹時に水のみで服用(食前30分以上) |
投与の容易さ | 注射手技が必要 | 錠剤の服用のみ |
効果の安定性 | 安定 | 食事や胃内pHの影響を受ける可能性あり |
副作用プロファイル | 注射部位反応あり | 注射部位反応なし |
経口薬であるリベルサスは、注射に抵抗がある患者さんに適していますが、以下の点に注意が必要です。
一方、注射薬は生物学的利用率が高く、効果が安定しているという利点があります。週1回投与製剤(トルリシティ、オゼンピック、マンジャロ)は投与回数が少なく、アドヒアランス向上に寄与します。
患者さんの好み、生活スタイル、治療目標に応じて適切な剤形を選択することが重要です。
近年、GLP-1受容体作動薬に加えて、GIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)受容体にも作用する二重作動薬が登場しています。代表的な薬剤がチルゼパチド(マンジャロ)です。
GLP-1単独作動薬とGIP/GLP-1二重作動薬の比較
GIP/GLP-1二重作動薬であるチルゼパチドは、以下の特徴を持っています。
SURPASS-CVOT試験では、チルゼパチドの心血管アウトカムに対する効果が検証されており、その結果が注目されています。
また、SURPASS-2試験ではチルゼパチド(5mg、10mg、15mg)とセマグルチド1mgを直接比較し、チルゼパチドの高用量(10mg、15mg)がセマグルチドよりも優れたHbA1c低下効果と体重減少効果を示しました。
SURPASS-2試験の詳細結果はこちらで確認できます
ただし、GIP/GLP-1二重作動薬は比較的新しい薬剤であり、長期的な安全性や有効性については今後のデータ蓄積が必要です。また、薬価も比較的高額であることから、費用対効果も考慮した薬剤選択が求められます。
GLP-1受容体作動薬は有効性の高い薬剤ですが、特有の副作用があります。薬剤師として患者さんに適切な情報提供と指導を行うことが重要です。
主な副作用と発現頻度
副作用対策と患者指導のポイント
これらの副作用対策と患者指導を適切に行うことで、GLP-1受容体作動薬の忍容性が向上し、治療の継続性が高まります。特に治療開始初期の指導が重要であり、患者さんの不安や疑問に丁寧に対応することが求められます。
GLP-1受容体作動薬は、糖尿病治療薬としての保険適用に加え、一部の製剤は肥満症治療薬としても承認されています。それぞれの保険適用条件と肥満治療への応用について解説します。
糖尿病治療薬としての保険適用条件
2型糖尿病患者に対しては、以下の条件で保険適用となります。