薬歴管理と薬剤師の役割で重要な記載事項

薬歴管理と薬剤師の役割で重要な記載事項

薬歴管理と薬剤師の役割

薬歴管理の重要ポイント
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患者情報の一元管理

薬歴は患者の服薬情報を集積した記録であり、適切な服薬指導に不可欠です

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法定保存期間

最終記入日から3年間の保存が義務付けられています

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調剤報酬の根拠

薬学管理料算定の根拠となる重要な記録です

薬歴管理は薬剤師の基本的な業務の一つであり、患者さんの安全で適切な薬物療法を支援するために欠かせない役割を担っています。薬歴(薬剤服用歴)とは、患者さんの処方内容や服薬状況、体質、疾患などについて記録したものであり、単なる履歴としてだけでなく、安全・適正な薬物療法の提供と調剤報酬請求の根拠としての重要な意味を持っています。

 

薬歴には、処方された薬の種類・分量・用法・処方日数などの基本情報に加え、患者さんの個人情報、アレルギー歴、副作用歴、体質や生活習慣に関する情報、そして服薬指導の内容や患者さんからの要望なども記載します。これらの情報を適切に管理することで、患者さんに最適な薬学的ケアを提供することができるのです。

 

近年では、紙媒体での管理から電子薬歴へと移行する薬局が増えていますが、どのような形式であっても、記載漏れをなくし、第三者が見てもわかりやすい記録を作成することが重要です。

 

薬歴管理における記載事項の重要性

薬歴には、厚生労働省の規定に基づいて以下の項目を記載することが求められています。

  1. 患者の基本情報(氏名、生年月日、連絡先など)
  2. アレルギー歴、副作用歴
  3. 薬学的管理に必要な生活像
  4. 疾患に関する情報
  5. 服薬状況(残薬の状況を含む)
  6. 服薬中の体調変化
  7. 服薬指導の要点

これらの情報を適切に記録することで、患者さんの薬物療法の安全性と有効性を高めることができます。特に、アレルギー情報や副作用歴は、重篤な健康被害を防ぐために極めて重要です。

 

また、薬歴は調剤報酬請求の根拠となる記録でもあるため、記載内容が不十分であると査定の対象となる可能性があります。よくある指摘事項としては、「アレルギー歴や副作用歴の記載がない」「服薬状況や残薬の状況の記載が不適切」「服薬指導の要点の記載がない」などが挙げられます。

 

薬歴管理のSOAP方式による効率的な記入方法

薬歴を記載する際に広く活用されているのが「SOAP方式」です。これは問題志向型の記録方法であり、以下の4つの要素から構成されています。

  • S(Subjective): 患者さんの主観的情報(訴え、症状など)
  • O(Objective): 客観的情報(検査結果、バイタルサインなど)
  • A(Assessment): 薬剤師による評価(問題点の抽出と分析)
  • P(Plan): 薬学的ケアの計画(服薬指導の内容、次回までの目標など)

SOAP方式を用いることで、薬剤師の思考過程が明確になり、他の薬剤師が見ても理解しやすい記録を作成することができます。また、問題点を明確にし、それに対する対応策を立てることで、継続的な薬学的管理が可能になります。

 

例えば、高血圧の患者さんの場合。

  • S: 「最近、朝起きると少しめまいがする」という訴え
  • O: 処方薬は降圧剤のアムロジピン5mg、自宅での血圧測定値は120/70mmHg前後
  • A: 降圧剤の効果が強すぎる可能性があり、起立性低血圧が疑われる
  • P: 朝の服用時間を調整するよう指導、自宅での血圧測定を継続してもらい次回確認する

このように記録することで、次回来局時にも適切なフォローアップが可能になります。

 

薬歴管理における電子化と紙媒体の比較

薬歴管理の方法としては、従来の紙媒体による管理と、近年普及が進んでいる電子薬歴があります。それぞれにメリット・デメリットがありますので、比較してみましょう。

 

【電子薬歴のメリット】

  • 検索機能により過去の記録を素早く参照できる
  • 処方箋データとの連携が容易
  • 保存スペースを取らない
  • 複数の薬剤師間での情報共有がしやすい
  • データのバックアップが可能

【電子薬歴のデメリット】

  • 初期導入コストが高い
  • システムトラブル時に対応が困難
  • 操作に慣れるまで時間がかかる
  • セキュリティ対策が必要

【紙薬歴のメリット】

  • 初期コストが低い
  • システムに依存せず停電時も使用可能
  • 自由な形式で記録できる
  • 操作方法の習得が不要

【紙薬歴のデメリット】

  • 保存スペースが必要
  • 検索性が低く過去の記録参照に時間がかかる
  • 判読性の問題(筆跡による)
  • 紛失や劣化のリスク

電子薬歴を導入する場合は、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠したシステムを選ぶことが重要です。このガイドラインでは、真正性(正確な情報が記録されていること)、見読性(必要時に参照できること)、保存性(データを正しく保管すること)の確保が求められています。

 

薬歴管理と手帳活用の連携による服薬指導の質向上

薬歴管理と密接に関連するのが、お薬手帳の活用です。お薬手帳は患者さんが持ち歩く薬の記録であり、薬歴と連携させることで服薬指導の質を高めることができます。

 

調剤報酬上も、手帳を活用した服薬指導は評価されており、「服薬管理指導料」の算定においても手帳の活用が重視されています。具体的には、3ヶ月以内に再度処方箋を持参した患者さんへの服薬管理指導料の算定回数のうち、手帳を提示した患者さんへの算定回数の割合が50%以下である薬局は「適切な手帳の活用実績が相当程度あると認められない保険薬局」とみなされ、点数が減算されます。

 

お薬手帳には以下の情報を記録することが求められています。

  1. 患者の氏名、生年月日、連絡先等
  2. アレルギー歴、副作用歴等
  3. 主な既往歴等疾患に関する記録
  4. 日常的に利用する保険薬局の名称、連絡先等

また、調剤を行った薬剤については、調剤日、薬剤名、用法・用量、服用時の注意点などを経時的に記載します。残薬が確認された場合は、その状況と理由も手帳に簡潔に記載し、必要に応じて処方医に情報提供することが求められています。

 

このように、薬歴と手帳を連携させることで、患者さんの薬物療法の安全性と有効性を高めることができるのです。

 

薬歴管理における初回と継続来局時の記載ポイント

薬歴の記載内容は、初めて薬局を訪れる患者さんと継続して来局する患者さんとでは異なります。それぞれのケースでの記載ポイントを押さえておきましょう。

 

【初回来局時の記載ポイント】

  1. 基本的な個人情報(氏名、住所、生年月日、保険情報など)
  2. アレルギー歴、副作用歴
  3. 既往歴、現在治療中の疾患
  4. 併用薬(他院からの処方薬、OTC医薬品、サプリメントなど)
  5. 生活習慣(喫煙、飲酒、食事、運動など)
  6. 妊娠・授乳の有無
  7. 服薬に関する希望や懸念事項

初回は情報収集が中心となりますが、単にアンケートの回答を転記するのではなく、患者さんとの対話を通じて必要な情報を抽出し、薬学的視点から整理することが重要です。

 

【継続来局時の記載ポイント】

  1. 前回からの変化(症状、体調、生活環境など)
  2. 服薬状況(アドヒアランス、残薬の有無とその理由)
  3. 副作用や有害事象の有無
  4. 新たな併用薬の有無
  5. 前回の服薬指導に対する反応や効果
  6. 今回の服薬指導の内容と患者さんの反応
  7. 次回までの目標や確認事項

継続来局時は、前回までの記録を参照し、時系列を意識した記載が重要です。問題点が解決されているか、新たな問題点はないかという視点で記載することで、継続的な薬学的管理が可能になります。

 

また、患者さんの状態に応じて短期的・長期的な計画を立て、それを薬歴に記載することで、次回の服薬指導にも活かすことができます。例えば「次回までに血糖値の変動を確認する」「3ヶ月後に骨密度検査の結果を確認する」などの計画を記載しておくと良いでしょう。

 

厚生労働省:薬剤服用歴管理指導料に関する基本的な考え方
薬歴管理は単なる記録作業ではなく、薬剤師の専門性を発揮する重要な業務です。適切な薬歴管理を行うことで、患者さんの薬物療法の安全性と有効性を高め、医療の質向上に貢献することができます。日々の業務の中で、薬歴の記載内容や方法を見直し、より良い薬学的ケアを提供するための基盤としていきましょう。

 

また、薬局内での薬歴管理の標準化も重要です。複数の薬剤師が同じ患者さんに対応する場合でも、一貫した薬学的ケアを提供するためには、薬歴の記載方法や内容について薬局内で共通認識を持つことが必要です。定期的な研修や事例検討を通じて、薬歴管理の質を高めていくことが望ましいでしょう。

 

薬歴は患者さんの健康を守るための重要なツールであると同時に、薬剤師の思考過程や専門性を示す記録でもあります。一人ひとりの患者さんに最適な薬物療法を提供するために、日々の薬歴管理を大切にしていきましょう。