重複投与の確認で薬剤師が疑義照会と加算算定する方法

重複投与の確認で薬剤師が疑義照会と加算算定する方法

重複投与の確認と薬剤師の役割

重複投与確認の重要ポイント
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患者安全の確保

重複投与の確認は副作用リスク軽減や医療費適正化に直結します

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算定可能な加算

適切な疑義照会で重複投薬・相互作用等防止加算が算定できます

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電子処方箋の活用

電子処方箋管理サービスで医療機関を跨いだチェックが可能になりました

重複投与の確認が必要な理由と薬剤師の責任

重複投与の確認は、薬剤師の最も重要な業務の一つです。患者が複数の医療機関を受診する現代では、同一成分や類似薬効の薬剤が重複して処方されるリスクが高まっています。特に高齢者や慢性疾患を抱える患者では、複数の医療機関から処方された薬剤を服用していることが多く、重複投与のリスクが高まります。

 

重複投与が起こると、以下のような問題が生じる可能性があります。

  • 薬物有害反応(副作用)の増強
  • 予期せぬ相互作用の発生
  • 医療費の無駄な増加
  • 患者の服薬アドヒアランスの低下

薬剤師法第24条では「薬剤師は、処方箋中に疑わしい点があるときは、その処方箋を交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない」と定められています。重複投与の確認と適切な疑義照会は、薬剤師の法的責任でもあるのです。

 

重複投薬・相互作用等防止加算の算定要件と点数

薬剤師が重複投与を発見し、処方医に疑義照会を行った結果、処方内容が変更された場合には「重複投薬・相互作用等防止加算」を算定することができます。2024年度の調剤報酬改定により、この加算の点数が見直されました。

 

現在の加算点数は以下の通りです。

区分 内容 点数
イ:残薬調整に係るもの以外の場合 重複投薬や相互作用等の防止 40点
ロ:残薬調整に係るものの場合 残薬調整による処方変更 20点

「イ:残薬調整に係るもの以外の場合」は、以下のような内容を処方医へ連絡・確認し、処方変更された場合に算定できます。

  1. 併用薬との重複投薬(薬理作用が類似する場合を含む)
  2. 併用薬、飲食物等との相互作用
  3. そのほか薬学的観点から必要と認める事項

「ロ:残薬調整に係るものの場合」は、残薬について処方医に疑義照会を行い、処方変更が行われた場合に算定可能です。

 

算定にあたっては、以下の点に注意が必要です。

  • 薬剤服用歴管理指導料を算定していない場合は、当該加算は算定できません
  • 処方医に連絡・確認を行った内容の要点と変更内容を薬剤服用歴の記録に記載する必要があります
  • 同時に複数の処方箋を受付し、複数の処方箋について薬剤を変更した場合でも、算定は1回に限られます
  • 複数の項目に該当した場合でも、重複して算定することはできません

電子処方箋管理サービスを活用した重複投与の確認方法

2023年から本格運用が始まった電子処方箋管理サービスでは、重複投薬等チェック機能が提供されています。この機能を活用することで、他の医療機関や薬局で処方・調剤された薬剤との重複や、併用禁忌の関係にある薬剤を事前に把握することができます。

 

電子処方箋管理サービスにおける重複投薬等チェックの特徴は以下の通りです。

  1. チェック内容
    • 重複投薬:同一投与経路・同一成分である医薬品との重複をチェック
    • 併用禁忌:添付文書の相互作用項目で「併用禁忌」と定義されているものをチェック
  2. チェックのタイミング
    • 医療機関(院外処方):処方内容の確定までの任意のタイミングで可能
    • 医療機関(院内処方):院内処方等情報の確定までの任意のタイミングで可能
    • 薬局:処方箋受付時、および調剤内容の確定までに必要に応じて実施可能
  3. チェック対象
    • 医療保険適用の医薬品(レセプト電算コードに存在する薬剤)
    • 同一医療機関・薬局で処方・調剤された薬剤については、選択に応じてチェック対象とすることも可能
  4. 確認範囲
    • 服用期間の算定が可能な医薬品(例:14日分処方された内服薬)については当該期間
    • 服用期間の算定が不可能な医薬品(例:外用や頓服)については一律14日間を服用期間として設定

重要なポイントとして、患者が薬剤情報の提供に同意しなかった場合でも、重複投薬等チェックは実施可能です。2023年12月からは、重複投薬・併用禁忌が疑われた際に、患者から口頭等で同意を得ることで、処方予定の薬剤と重複投薬や併用禁忌の恐れがある薬剤の情報に限り確認できるようになりました。

 

電子処方箋管理サービスにおける重複投薬等チェックの詳細については厚生労働省の資料を参照

重複投与の確認で注意すべき薬剤と臨床例

重複投与の確認において、特に注意が必要な薬剤や臨床例を把握しておくことは重要です。以下に代表的な例を紹介します。

 

1. 消化性潰瘍治療薬(PPIやH2ブロッカー)
逆流性食道炎などの治療で使用されるプロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーは、複数の医療機関から処方されるケースが多い薬剤です。例えば。

  • 消化器内科でPPIが処方され、整形外科でNSAIDs潰瘍予防としても同様のPPIが処方される
  • 循環器内科で低用量アスピリン処方時の胃粘膜保護としてPPIが処方され、別の医療機関でも同様の薬剤が処方される
  • 注射でPPIやH2ブロッカーを使用し、内服でも同様の薬剤が処方されるケース

2. 降圧薬
高血圧治療では複数の降圧薬を併用することがありますが、同じ作用機序の薬剤が重複して処方されるケースがあります。

  • 複数の医療機関からARBやACE阻害薬が処方される
  • カルシウム拮抗薬の重複処方
  • 利尿薬の重複による電解質異常のリスク

3. 精神神経用薬
向精神薬は特に注意が必要です。

  • 複数の医療機関から同系統の抗不安薬や睡眠薬が処方される
  • 抗うつ薬の重複処方によるセロトニン症候群のリスク
  • 抗精神病薬の重複による錐体外路症状のリスク増大

4. 糖尿病治療薬
作用機序の異なる薬剤の併用は治療戦略として有効ですが、同じ作用機序の薬剤の重複は避けるべきです。

  • SU薬とグリニド系薬剤の重複による低血糖リスク
  • DPP-4阻害薬の重複処方
  • SGLT2阻害薬の重複による副作用リスクの増大

重複投与の確認では、単に同一成分の重複だけでなく、薬理作用が類似する薬剤の重複にも注意が必要です。また、適用用量を超えた処方(例:H.pyloriの除菌療法での倍量PPI処方など)についても、保険適用外の処方がみられた場合は医師への確認が必要です。

 

重複投与の確認における薬剤師の実践的アプローチ

重複投与の確認を効果的に行うためには、システマティックなアプローチが必要です。以下に実践的な方法を紹介します。

 

1. 情報収集の徹底
重複投与を発見するためには、まず患者の服薬情報を正確に把握することが重要です。

  • お薬手帳の確認:複数の医療機関からの処方内容を確認
  • 患者インタビュー:「他の医療機関にかかっていますか?」「市販薬や健康食品を使用していますか?」など具体的に質問
  • 薬剤服用歴の活用:過去の処方内容や残薬状況を確認
  • 電子処方箋管理サービスの活用:他医療機関での処方情報を確認

2. 重複投与チェックのポイント
効率的なチェックのためのポイントは以下の通りです。

  • 同一成分の重複だけでなく、同系統・類似薬理作用を持つ薬剤の重複にも注意
  • 投与量と投与期間の確認:適正用量を超えていないか
  • 併用禁忌・併用注意の確認:相互作用による副作用リスクの評価
  • 患者の状態に応じたリスク評価:高齢者や腎機能低下患者では特に注意

3. 疑義照会の実施
重複投与を発見した場合の疑義照会のポイントは以下の通りです。

  • 具体的な情報提供:「〇〇病院で△△mg/日のAが処方されており、今回の処方と合わせると推奨最大用量を超えます」など
  • 代替案の提案:「Bへの変更はいかがでしょうか」など建設的な提案を行う
  • 患者情報の共有:「患者さんは〇〇の副作用歴があります」など重要情報を伝える
  • 記録の徹底:疑義照会の内容と結果を薬剤服用歴に記録

4. 患者教育と継続的なフォロー
重複投与防止のためには患者教育も重要です。

  • お薬手帳の活用方法を指導:すべての医療機関・薬局で提示するよう促す
  • 複数医療機関受診時の注意点を説明:「新たに受診する際は現在服用中の薬をすべて伝えてください」
  • 残薬管理の支援:定期的な残薬確認と調整の提案
  • フォローアップの実施:次回来局時に服薬状況や副作用の有無を確認

5. 多職種連携の推進
重複投与の防止には、医療チーム全体での取り組みが効果的です。

  • かかりつけ医との情報共有:定期的に患者の服薬状況を報告
  • 地域連携:地域の医療機関・薬局間での情報共有システムの活用
  • ケアマネージャーや訪問看護師との連携:在宅患者の服薬管理状況の共有
  • 医療機関への情報提供:トレーシングレポートなどを活用した継続的な情報提供

重複投与の確認は単なる業務ではなく、患者の安全を守るための重要な臨床業務です。システマティックなアプローチと継続的な改善を通じて、より効果的な重複投与の確認体制を構築していくことが求められています。

 

服薬適正化事業における重複服薬対策の具体的な取り組み例については厚生労働省の資料を参照

重複投与の確認から見えてくる薬局業務の価値向上

重複投与の確認は、単に医療安全の確保だけでなく、薬局業務の価値向上にもつながります。適切な重複投与の確認を通じて、薬局と薬剤師の存在価値を高める方法について考えてみましょう。

 

1. 医療費適正化への貢献
重複投与の防止は医療費の無駄を削減します。

  • 不必要な薬剤の削減による薬剤費の節約
  • 重複投与による副作用発現の予防と、それに伴う追加治療費の削減
  • 残薬調整による薬剤の有効活用

実際に、残薬調整や重複投薬の防止により、年間数百億円規模の医療費削減効果があるとの試算もあります。薬局がこうした取り組みを数値化して示すことで、医療システムにおける薬局の価値を明確にできます。

 

2. 患者満足度の向上
重複投与の確認と適切な対応は、患者からの信頼獲得につながります。

  • 「この薬局は私の薬をしっかり管理してくれている」という安心感の提供
  • 薬の整理による服薬負担の軽減と、それに伴うアドヒアランスの向上
  • 副作用リスクの低減による患者QOLの向上

患者アンケートなどを通じて、こうした取り組みの効果を可視化することも重要です。

 

3. 薬剤師の専門性の発揮
重複投与の確認は、薬剤師の専門性を発揮できる重要な業務です。

  • 薬学的知識に基づく処方評価と医師への情報提供
  • 患者個別の状況に応じたリスク評価と対応
  • 多剤併用の適正化(ポリファーマシー対策)への貢献

こうした専門的業務を通じて、「薬を渡すだけ」というイメージから脱却し、真の医療人としての薬剤師の役割を確立することができます。

 

4. 地域医療における薬局の位置づけ強化
重複投与の確認を通じた医療機関との連携は、地域医療における