
重複投与の確認は、薬剤師の最も重要な業務の一つです。患者が複数の医療機関を受診する現代では、同一成分や類似薬効の薬剤が重複して処方されるリスクが高まっています。特に高齢者や慢性疾患を抱える患者では、複数の医療機関から処方された薬剤を服用していることが多く、重複投与のリスクが高まります。
重複投与が起こると、以下のような問題が生じる可能性があります。
薬剤師法第24条では「薬剤師は、処方箋中に疑わしい点があるときは、その処方箋を交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない」と定められています。重複投与の確認と適切な疑義照会は、薬剤師の法的責任でもあるのです。
薬剤師が重複投与を発見し、処方医に疑義照会を行った結果、処方内容が変更された場合には「重複投薬・相互作用等防止加算」を算定することができます。2024年度の調剤報酬改定により、この加算の点数が見直されました。
現在の加算点数は以下の通りです。
区分 | 内容 | 点数 |
---|---|---|
イ:残薬調整に係るもの以外の場合 | 重複投薬や相互作用等の防止 | 40点 |
ロ:残薬調整に係るものの場合 | 残薬調整による処方変更 | 20点 |
「イ:残薬調整に係るもの以外の場合」は、以下のような内容を処方医へ連絡・確認し、処方変更された場合に算定できます。
「ロ:残薬調整に係るものの場合」は、残薬について処方医に疑義照会を行い、処方変更が行われた場合に算定可能です。
算定にあたっては、以下の点に注意が必要です。
2023年から本格運用が始まった電子処方箋管理サービスでは、重複投薬等チェック機能が提供されています。この機能を活用することで、他の医療機関や薬局で処方・調剤された薬剤との重複や、併用禁忌の関係にある薬剤を事前に把握することができます。
電子処方箋管理サービスにおける重複投薬等チェックの特徴は以下の通りです。
重要なポイントとして、患者が薬剤情報の提供に同意しなかった場合でも、重複投薬等チェックは実施可能です。2023年12月からは、重複投薬・併用禁忌が疑われた際に、患者から口頭等で同意を得ることで、処方予定の薬剤と重複投薬や併用禁忌の恐れがある薬剤の情報に限り確認できるようになりました。
電子処方箋管理サービスにおける重複投薬等チェックの詳細については厚生労働省の資料を参照
重複投与の確認において、特に注意が必要な薬剤や臨床例を把握しておくことは重要です。以下に代表的な例を紹介します。
1. 消化性潰瘍治療薬(PPIやH2ブロッカー)
逆流性食道炎などの治療で使用されるプロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーは、複数の医療機関から処方されるケースが多い薬剤です。例えば。
2. 降圧薬
高血圧治療では複数の降圧薬を併用することがありますが、同じ作用機序の薬剤が重複して処方されるケースがあります。
3. 精神神経用薬
向精神薬は特に注意が必要です。
4. 糖尿病治療薬
作用機序の異なる薬剤の併用は治療戦略として有効ですが、同じ作用機序の薬剤の重複は避けるべきです。
重複投与の確認では、単に同一成分の重複だけでなく、薬理作用が類似する薬剤の重複にも注意が必要です。また、適用用量を超えた処方(例:H.pyloriの除菌療法での倍量PPI処方など)についても、保険適用外の処方がみられた場合は医師への確認が必要です。
重複投与の確認を効果的に行うためには、システマティックなアプローチが必要です。以下に実践的な方法を紹介します。
1. 情報収集の徹底
重複投与を発見するためには、まず患者の服薬情報を正確に把握することが重要です。
2. 重複投与チェックのポイント
効率的なチェックのためのポイントは以下の通りです。
3. 疑義照会の実施
重複投与を発見した場合の疑義照会のポイントは以下の通りです。
4. 患者教育と継続的なフォロー
重複投与防止のためには患者教育も重要です。
5. 多職種連携の推進
重複投与の防止には、医療チーム全体での取り組みが効果的です。
重複投与の確認は単なる業務ではなく、患者の安全を守るための重要な臨床業務です。システマティックなアプローチと継続的な改善を通じて、より効果的な重複投与の確認体制を構築していくことが求められています。
服薬適正化事業における重複服薬対策の具体的な取り組み例については厚生労働省の資料を参照
重複投与の確認は、単に医療安全の確保だけでなく、薬局業務の価値向上にもつながります。適切な重複投与の確認を通じて、薬局と薬剤師の存在価値を高める方法について考えてみましょう。
1. 医療費適正化への貢献
重複投与の防止は医療費の無駄を削減します。
実際に、残薬調整や重複投薬の防止により、年間数百億円規模の医療費削減効果があるとの試算もあります。薬局がこうした取り組みを数値化して示すことで、医療システムにおける薬局の価値を明確にできます。
2. 患者満足度の向上
重複投与の確認と適切な対応は、患者からの信頼獲得につながります。
患者アンケートなどを通じて、こうした取り組みの効果を可視化することも重要です。
3. 薬剤師の専門性の発揮
重複投与の確認は、薬剤師の専門性を発揮できる重要な業務です。
こうした専門的業務を通じて、「薬を渡すだけ」というイメージから脱却し、真の医療人としての薬剤師の役割を確立することができます。
4. 地域医療における薬局の位置づけ強化
重複投与の確認を通じた医療機関との連携は、地域医療における