ジェネリック医薬品と後発医薬品の特許期間と薬価差

ジェネリック医薬品と後発医薬品の特許期間と薬価差

ジェネリック医薬品と後発医薬品の基礎知識と最新動向

ジェネリック医薬品の基本情報
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同一有効成分

先発医薬品と同じ有効成分を含み、特許期間満了後に製造・販売される医薬品

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コスト削減

先発医薬品より4〜5割安価で、医療費抑制に貢献

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普及目標

2029年度末までに全都道府県で数量シェア80%以上を目指す

ジェネリック医薬品の定義と特許期間の関係

ジェネリック医薬品とは、先発医薬品(新薬)の特許期間が満了した後に、同じ有効成分で製造・販売される医薬品のことです。「後発医薬品」「ゾロ」「ゾロ新」「ゾロ薬」「後発薬」などとも呼ばれています。

 

先発医薬品の特許期間は通常20〜25年間設定されており、この期間中は特許権者である製薬企業のみが製造・販売の権利を持ちます。特許期間が満了すると、他の製薬企業も同じ有効成分を使用した医薬品を製造・販売できるようになります。

 

特許には主に以下の種類があり、ジェネリック医薬品が登場するためには少なくとも最初の2つの特許が切れている必要があります。

  • 物質特許:新しい化学物質そのものに与えられる特許
  • 用途特許:特定の物質の新しい効能・効果に与えられる特許
  • 製法特許:物質の新しい製造方法に関する特許
  • 製剤特許:薬を製剤する上での新しい工夫に関する特許

物質特許と用途特許が切れていれば、ジェネリック医薬品は先発医薬品と同じ主成分を使用できますが、製法特許や製剤特許が残っている場合は、コーティング部分の添加物や剤形を変える必要があります。これが、ジェネリック医薬品と先発医薬品の間で見られる外観や添加物の違いの主な理由です。

 

ジェネリック医薬品の薬価差と医療費削減効果

ジェネリック医薬品の最大の特徴は、先発医薬品と比較して薬価が安いことです。一般的に、ジェネリック医薬品は先発医薬品より4〜5割程度安価に設定されています。これは、ジェネリックメーカーが新薬開発時のような膨大な研究開発費や臨床試験費用を投じる必要がないためです。

 

この薬価差が医療費削減に大きく貢献しています。例えば、ある高血圧治療薬の先発品が100円だとすると、そのジェネリック医薬品は50〜60円程度で提供されます。国全体で見ると、この差額が積み重なり、年間数千億円規模の医療費削減効果をもたらしています。

 

2025年4月現在、日本政府は医療費適正化の一環として、ジェネリック医薬品の使用促進を積極的に進めています。具体的な目標として、2029年度末までに以下が設定されています。

  • 全ての都道府県でジェネリック医薬品の数量シェアを80%以上にする
  • バイオシミラー(バイオ医薬品のジェネリック版)が80%以上を占める成分数を全体の60%以上にする
  • ジェネリック医薬品の金額シェアを65%以上にする

これらの目標達成に向けて、診療報酬制度でもジェネリック医薬品の使用を促進する加算が設けられています。

 

ジェネリック医薬品の先発医薬品との違いと品質保証

ジェネリック医薬品は先発医薬品と同じ有効成分を同量含有していますが、いくつかの点で異なる場合があります。

  1. 添加物の違い:コーティング剤、着色料、香料などの添加物が異なることがあります。これらは薬の効果に直接関係しない成分ですが、飲みやすさや保存性に影響します。

     

  2. 形状・色・大きさの違い:飲みやすさを考慮して、先発医薬品とは異なる形状や色、大きさに設計されていることがあります。

     

  3. 生物学的同等性:ジェネリック医薬品は、先発医薬品と「生物学的に同等」であることが求められています。しかし、完全に同一ではなく、有効性の許容域は±20%(対数変換を行う場合は80〜125%)とされています。つまり、厳密には効果に若干の差が生じる可能性があります。

     

  4. 製造方法の違い:製法特許が残っている場合、ジェネリックメーカーは独自の製造方法を開発する必要があります。

     

これらの違いにより、ごくまれに先発医薬品では問題なかった患者さんが、ジェネリック医薬品で副作用を経験したり、効果に違いを感じたりすることがあります。ただし、ジェネリック医薬品も厳格な審査を経て承認されており、基本的な品質や効果は保証されています。

 

ジェネリック医薬品の普及率と供給不安の現状

日本のジェネリック医薬品の普及率(数量シェア)は年々上昇しており、2023年9月時点で36都道府県が80%以上のシェアを達成しています。しかし、欧米諸国と比較するとまだ普及率は低い状況です。アメリカでは90%以上、ヨーロッパでも60〜80%の普及率があります。

 

2021年から2022年にかけて、一部のジェネリックメーカーの不祥事により業務停止命令が出され、ジェネリック医薬品の供給不安が発生しました。この影響は2025年現在も続いており、厚生労働省は供給安定化に向けた対策を講じています。

 

具体的には、2024年10月から2025年3月までの期間、「後発医薬品使用体制加算」や「後発医薬品調剤体制加算」などの算定において、供給不安となっているジェネリック医薬品を計算から除外することを認める措置が取られています。これにより、医療機関や薬局が供給不安の影響で加算を受けられなくなるリスクを軽減しています。

 

ジェネリック医薬品の普及が進まない要因としては、以下が挙げられます。

  • 患者の認知度の低さ
  • 品質や効果に対する不安や偏見
  • 医師や薬剤師の積極的な推奨不足
  • 供給不安による信頼性の低下

これらの課題を解決するためには、正確な情報提供と継続的な品質検証が重要です。

 

ジェネリック医薬品に関する2025年10月からの制度改正

2025年10月1日から、ジェネリック医薬品がある薬で先発医薬品の処方を希望する場合、特別な料金の支払いが必要になります。この制度改正は、令和6年度(2024年度)の診療報酬改定に基づくものです。

 

具体的な変更点は以下の通りです。

  • 先発医薬品と後発医薬品の薬価の差額の4分の1相当額が、特別料金として窓口での一部負担金に加算されます
  • 薬剤料以外の費用(診療・調剤の費用)はこれまでと変わりません
  • 医療上の必要性が認められる場合(過去に当該ジェネリック医薬品で副作用が出たことがある場合など)は、特別料金は不要です

この制度改正の目的は、患者の選択肢を残しつつも、ジェネリック医薬品の使用をさらに促進し、医療費の適正化を図ることにあります。患者にとっては、先発医薬品を選択する際のコスト負担が増えることになりますが、医療費全体の抑制に貢献する仕組みと言えるでしょう。

 

医師や薬剤師は、この制度改正について患者に適切に説明し、個々の状況に応じた最適な薬剤選択をサポートすることが求められます。

 

ジェネリック医薬品と先発医薬品の選択基準と薬剤師の役割

薬剤師として、患者さんにジェネリック医薬品と先発医薬品のどちらを選択すべきかアドバイスする際は、以下の点を考慮することが重要です。

 

ジェネリック医薬品が適している場合:

  1. 経済的負担の軽減を希望する患者:長期服用が必要な慢性疾患の患者さんは、薬剤費の削減効果が大きくなります。

     

  2. 単純な疾患治療の場合:高血圧や高コレステロール血症など、比較的シンプルな治療目的の薬剤は、ジェネリック医薬品への切り替えがスムーズなことが多いです。

     

  3. 服用コンプライアンス向上が期待できる場合:ジェネリック医薬品の中には、先発品より飲みやすい工夫(口腔内崩壊錠への変更、苦みの軽減など)がされているものもあります。

     

先発医薬品が適している場合:

  1. 治療域の狭い薬剤:抗てんかん薬や抗凝固薬など、効果の微妙な変動が重大な影響を及ぼす可能性がある薬剤は、切り替えに慎重さが求められます。

     

  2. 過去にジェネリック医薬品で副作用や効果不十分を経験した患者:個人の体質によっては、特定のジェネリック医薬品が合わないケースがあります。

     

  3. 複雑な病態を持つ患者:多剤併用している患者や、複数の疾患を持つ高齢者などは、薬剤の切り替えによる予期せぬ影響を考慮する必要があります。

     

薬剤師の役割として、単に経済的メリットだけでなく、患者さんの病態や生活背景、服薬状況を総合的に評価し、最適な選択をサポートすることが求められます。また、2025年10月からの制度改正についても、患者さんに分かりやすく説明し、理解を促すことが重要です。

 

ジェネリック医薬品への切り替え後は、効果や副作用の変化がないか注意深く観察し、問題があれば速やかに医師に相談するよう指導することも、薬剤師の重要な責務です。

 

ジェネリック医薬品のデジタルヘルスへの応用と将来展望

ジェネリック医薬品の普及と並行して、デジタルヘルス技術との融合が進みつつあります。これは、薬剤師が知っておくべき新たな動向として注目されています。

 

電子お薬手帳とジェネリック医薬品情報の統合
電子お薬手帳アプリに、処方されている薬のジェネリック医薬品情報や薬価差を表示する機能が実装されつつあります。患者はこれにより、自分の服用している薬のジェネリック医薬品への切り替えによる経済的メリットを具体的に把握できるようになります。

 

薬剤師は、こうしたデジタルツールを活用して患者教育を行い、ジェネリック医薬品への理解を深める支援ができます。特に2025年10月からの制度改正に伴い、こうしたツールの重要性は増すでしょう。

 

服薬アドヒアランス向上のためのデジタルソリューション
ジェネリック医薬品メーカーの中には、自社製品の服薬をサポートするスマートフォンアプリを開発する企業も出てきています。これらのアプリは服薬リマインダー機能だけでなく、副作用モニタリングや効果の自己評価機能を備えているものもあります。

 

薬剤師は、特に高齢者や多剤併用患者に対して、こうしたデジタルツールの活用法を指導することで、ジェネリック医薬品への切り替え後の不安軽減に貢献できます。

 

遠隔医療とジェネリック医薬品の処方
COVID-19パンデミック以降、遠隔診療・オンライン服薬指導が普及しました。この流れの中で、ジェネリック医薬品の選択についても遠隔で相談できるシステムが整備されつつあります。

 

薬剤師は、対面だけでなくオンラインでも患者のジェネリック医薬品に関する疑問や不安に対応できるよう、コミュニケーションスキルを磨く必要があります。

 

今後の展望
ジェネリック医薬品とデジタルヘルスの融合は、以下のような方向に進むと予想されます。

  1. AI技術を活用した個別化されたジェネリック医薬品推奨システムの開発
  2. ブロックチェーン技術によるジェネリック医薬品の品質保証・トレーサビリティの向上
  3. ウェアラブルデバイスとの連携による、ジェネリック医薬品への切り替え後の効果モニタリング

薬剤師は、こうした技術革新に対応するためのデジタルリテラシーを高めつつ、患者と医療技術をつなぐ重要な橋渡し役としての役割を果たすことが求められます。

 

ジェネリック医薬品の普及促進とデジタルヘルスの発展は、医療費の適正化と医療の質向上という二つの目標を同時に達成するための重要な要素となるでしょう。