
薬剤師が処方箋に記載された医薬品を変更して調剤する「変更調剤」には、明確なルールが存在します。原則として、薬剤師は処方箋に記載された通りに調剤しなければなりません。これは薬剤師法第23条の2に「薬剤師は、処方せんに記載された医薬品につき、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師の同意を得た場合を除くほか、これを変更して調剤してはならない」と明記されています。
しかし、ジェネリック医薬品の使用促進の観点から、一定の条件下では処方医への疑義照会なしに変更調剤が認められています。錠剤から散剤への変更も、この枠組みの中で可能です。
変更調剤の基本条件は以下の通りです。
特に錠剤から散剤への変更は、「類似する別剤形」への変更に該当します。厚生労働省の規定では、内服薬の剤形は以下のように分類されています。
これらのグループ間での変更(例:錠剤から散剤への変更)は、後発医薬品への変更であり、かつ薬剤料が同額以下である場合に認められます。
変更調剤を行う際、特に錠剤から散剤への変更では、薬剤料の計算が重要なポイントとなります。「同一含量規格・同一剤形」の場合を除き、変更後の薬剤料が変更前と比較して同額以下でなければなりません。
ここで注意すべきは、比較するのは「薬価」ではなく「薬剤料」だということです。薬剤料とは、調剤報酬点数表に基づいて算定される保険請求上の点数のことを指します。
例えば、先発医薬品の錠剤から後発医薬品の散剤に変更する場合。
この場合、変更後の薬剤料は変更前より低いため、変更調剤が可能です。
しかし、含量規格が異なる場合は計算が複雑になります。例えば、10mg錠から5mg散剤への変更では、必要量が2倍になるため、薬価の単純比較だけでは判断できません。この場合、総薬剤料で比較する必要があります。
また、令和6年3月15日の厚生労働省通達により、医薬品供給不安に対応するため、一時的に「変更後の薬剤料が変更前を超える場合でも、患者の同意があれば変更調剤可能」とする特例措置が設けられています。
処方箋に「粉砕」の指示がある錠剤は、散剤への変更調剤が特に有用です。粉砕作業は時間と労力を要するため、同等の散剤が存在する場合は変更調剤によって業務効率化が図れます。
具体的な事例を見てみましょう。
【変更前の処方】
ラシックス錠40mg(薬価14円)1錠 粉砕
【変更後の処方】
フロセミド細粒4%「EMEC」(薬価6.4円)1g
この変更は、後発医薬品への変更かつ「同一含量規格・異なる剤形」に該当するため、変更調剤が可能です。40mg錠1錠と4%細粒1g(=40mg)は同一含量規格であり、薬剤料も変更後の方が低くなっています。
小児患者や嚥下困難な高齢患者の場合、錠剤の粉砕指示は頻繁に見られます。このような場合、以下のポイントに注意して変更調剤を検討します。
例えば、アムロジピン錠を粉砕指示で処方された場合、アムロジピン散への変更は、苦味が強くなる可能性があるため、患者の嗜好や服薬状況を確認する必要があります。
変更調剤を行う際、薬剤師は単にルールに従うだけでなく、薬学的知識に基づいた専門的判断が求められます。特に錠剤と散剤の変更においては、以下のポイントを考慮する必要があります。
錠剤と散剤では、溶出性や吸収性が異なる場合があります。特に徐放性製剤や腸溶性製剤では、剤形変更により薬物動態が大きく変わる可能性があるため注意が必要です。
剤形変更により、消化管内での他剤との相互作用プロファイルが変化する可能性があります。特に吸着や錯体形成を起こしやすい薬剤では注意が必要です。
散剤は表面積が大きいため、錠剤と比較して環境要因(湿度、光、温度など)の影響を受けやすい傾向があります。
変更調剤を行う際は、これらの要素を総合的に判断し、患者にとって最適な選択をすることが重要です。また、変更調剤を行った場合は、その内容を処方医に情報提供することが望ましいとされています。
近年、医薬品の安定供給に関する問題が増加しており、特に後発医薬品の供給不足が深刻化しています。令和6年3月15日、厚生労働省保険局医療課は医薬品供給不安に対応するための特例措置を発表しました。
この特例措置により、通常のルールでは認められない以下のような変更調剤も可能となっています。
通常、変更調剤は後発医薬品への変更のみが認められていますが、後発医薬品の在庫がない場合は、患者の同意を得て先発医薬品に変更することが可能になりました。
含量規格が異なる後発医薬品や類似する別剤形への変更において、変更後の薬剤料が変更前を超える場合でも、患者に説明し同意を得ることで変更調剤が可能です。
内服薬において、例えば錠剤(普通錠、口腔内崩壊錠、カプセル剤、丸剤)から散剤(散剤、顆粒剤、細粒剤、末剤、ドライシロップ剤)への変更など、通常の類似剤形の範囲を超えた変更も認められています。
これらの特例措置は、患者が薬を求めて複数の薬局を回るという不利益を防ぐために導入されました。ただし、変更調剤を行う際には以下の点に注意が必要です。
また、供給不足に対応するための別の対策として、令和6年度調剤報酬改定では「自家製剤加算」の算定要件が緩和されました。これにより、薬価基準収載医薬品であっても供給上の問題により入手困難な場合は、自家製剤による対応が評価されるようになりました。
医薬品供給不安は、後発品メーカーの不祥事や自然災害など様々な要因が複合的に絡み合っており、短期間での解消は難しい状況です。薬剤師は柔軟な対応と専門的判断により、患者の薬物治療を支える重要な役割を担っています。
変更調剤を行う際、患者への適切な説明と同意取得は法的要件であるだけでなく、服薬アドヒアランスの向上にも直結する重要なプロセスです。特に錠剤から散剤への変更は、服用方法や使用感が大きく変わるため、丁寧な説明が求められます。
効果的な説明のポイント
同意取得のコツ
患者の同意を得るためには、単に情報を提供するだけでなく、患者の懸念や質問に丁寧に対応することが重要です。
高齢者への説明時の注意点
高齢患者に対しては、特に以下の点に配慮した説明が効果的です。
変更調剤に関する説明と同意取得は、単なる事務的手続きではなく、患者中心の医療を実践する重要な機会です。患者の理解度や受け入れ状況を確認しながら、個々の患者に合わせた説明を心がけましょう。
また、変更調剤を行った記録は、調剤録に残すとともに、次回の処方時に参考となるよう薬歴にも詳細に記録することが望ましいでしょう。
以上のポイントを押さえることで、錠剤から散剤への変更調剤をスムーズに行い、患者の薬物治療の質を維持・向上させることができます。