自家製剤加算の算定要件と点数・調剤技術の解説

自家製剤加算の算定要件と点数・調剤技術の解説

自家製剤加算の算定要件と点数

自家製剤加算の基本情報
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定義

市販の医薬品の剤形で対応できない場合に、医師の指示に基づいて特殊な技術工夫を行った場合に算定できる加算

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算定条件

薬価基準に収載されている医薬品と異なる剤形に調製し、その規格が薬価収載されていないこと

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注意点

2024年度改定で錠剤分割時の点数が変更、調剤録への製剤工程記録が必須

自家製剤加算とは、薬価基準に収載されている医薬品の剤形では対応できない場合に、医師の指示に基づいて容易に服用できるよう調剤上の特殊な技術工夫を行った場合に算定できる加算です。この加算は、患者個々の状態に合わせた調剤を評価するものであり、薬剤師の専門的な技術が求められます。

 

自家製剤加算は投薬量や投与日数に関わらず、1調剤行為に対して算定できます。ただし、内服薬の場合は7日分ごとに加算されるという特徴があります。

 

自家製剤加算の対象となる調剤技術と具体例

自家製剤加算の対象となる「調剤上の特殊な技術工夫」には、以下のようなものが含まれます。

  • 安定剤、溶解補助剤、懸濁剤などの添加剤の使用
  • ろ過、加温、滅菌などの処理

具体的な自家製剤の例

  1. 錠剤を粉砕して散剤とする
  2. 主薬を溶解して点眼剤を無菌で調製する
  3. 主薬に基剤を加えて坐剤とする
  4. 錠剤を分割する(割線がある場合のみ)
  5. 安定剤や溶解補助剤、懸濁剤等の添加剤を加えて調製する

これらの調剤行為は、既存の医薬品では対応できない患者のニーズに応えるための重要な技術です。例えば、嚥下困難な患者さんのために錠剤を粉砕したり、小児用に用量調整するために錠剤を分割したりする場合などが該当します。

 

自家製剤加算の点数体系と2024年度改定ポイント

2024年度(令和6年)の診療報酬改定により、自家製剤加算の点数体系が一部変更されました。現在の点数体系は以下の通りです。
【内服薬】

  • 錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、エキス剤:7日分につき20点
  • 液剤:1調剤につき45点

【屯服薬】

  • 錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、エキス剤:1調剤につき90点
  • 液剤:1調剤につき45点

【外用薬】

  • 錠剤、トローチ剤、軟・硬膏剤、パップ剤、リニメント剤、坐剤:1調剤につき90点
  • 点眼剤、点鼻・点耳剤、浣腸剤:1調剤につき75点
  • 液剤:1調剤につき45点

特に注目すべき改定ポイントとして、錠剤を割線で分割した場合は、所定点数の100分の20相当の点数算定に変更されました。例えば、内服薬の錠剤を割線で分割した場合は、通常の20点ではなく4点(20点×0.2)となります。

 

また、予製剤(一度に多量に製造し、複数の患者に使用するために製造された製剤)の場合も、所定点数の100分の20に相当する点数となります。

 

自家製剤加算が算定できないケースと注意点

自家製剤加算を算定する際には、以下のケースでは算定できないため注意が必要です。

  1. 同一剤形・規格の医薬品が薬価収載されている場合
    • 例:5mg錠を半錠にして2.5mgとしても、他社から2.5mg錠が発売されている場合は算定不可
  2. 既製の医薬品を小分けするだけの場合
    • 単に分包するだけでは特殊な技術工夫とは認められない
  3. 外来服薬支援料2との併算定は不可
    • 同一の患者に対して同時に算定することはできない
  4. 用時溶解する医薬品を交付時に溶解した場合
    • 用法・用量に従った通常の調剤行為は対象外
  5. 割線のない錠剤を分割した場合
    • 含量均一性が保証できないため算定不可(ただし粉砕した場合は算定可能)

特に重要な注意点として、半錠にしたあとの規格がジェネリック医薬品で存在することもあるため、必ず確認が必要です。同一剤形・規格の医薬品が薬価収載されているかどうかの確認は、先発品だけでなくジェネリック医薬品も含めて行う必要があります。

 

ただし、医薬品の供給不足により在庫がない場合には、不足している医薬品の製剤となるよう他の医薬品を用いて調製した場合も、自家製剤加算を算定することができます。

 

自家製剤加算の調剤録記載と製剤工程の記録方法

自家製剤加算を算定する際には、製剤工程を調剤録に記載することが算定要件に含まれています。具体的には以下の内容を記録する必要があります。

  • 使用した医薬品の名称と分量
  • 添加された添加剤(賦形剤)の名称と分量
  • 製剤工程の詳細(粉砕、混合、溶解など)
  • 調製日時と調製者名

調剤録への記載は、医療安全の観点からも重要です。特に添加剤を使用する場合は、アレルギー反応などのリスクを考慮して正確に記録する必要があります。また、将来的に同様の調剤を行う際の参考資料としても活用できます。

 

記録の例。

【調剤日】2025年4月6日

【処方薬】アムロジピン錠5mg 1錠
【調製方法】割線に沿って二分割
【使用器具】錠剤カッター
【調製者】薬剤師 山田太郎

このような詳細な記録は、調剤の再現性を確保するとともに、医療事故防止にも役立ちます。

 

自家製剤加算と計量混合調剤加算の違いと使い分け

自家製剤加算と混同されやすい加算として「計量混合調剤加算」があります。これらの加算は似ているようで異なるものであり、適切に使い分ける必要があります。

 

自家製剤加算

  • 剤形を変更する調剤(錠剤→散剤など)
  • 薬価収載されていない規格への変更(割線のある錠剤の分割など)
  • 特殊な技術工夫を伴う調剤

計量混合調剤加算

  • 同一剤形の2種類以上の医薬品を混合する調剤
  • 散剤と散剤、軟膏と軟膏など同一剤形同士の混合
  • 混合により薬効の増強や副作用の軽減が期待できる場合

重要なポイントとして、同一の剤においては自家製剤加算と計量混合調剤加算は併算定できません。どちらの加算が適切かは、調剤内容によって判断する必要があります。

 

例えば、錠剤Aを粉砕して散剤Bと混合する場合、錠剤Aの粉砕部分は自家製剤加算、散剤Bとの混合部分は計量混合調剤加算の要素がありますが、この場合は自家製剤加算のみを算定します。

 

自家製剤加算の臨床現場での活用事例と患者メリット

自家製剤加算が算定できる調剤は、患者さんにとって様々なメリットをもたらします。実際の臨床現場での活用事例を見てみましょう。

 

事例1:嚥下困難患者への対応
高齢の患者さんで嚥下機能が低下している場合、錠剤をそのまま服用することが困難なケースがあります。このような場合、錠剤を粉砕して服用しやすい散剤に調製することで、服薬アドヒアランスの向上につながります。

 

事例2:小児への投与量調整
小児患者に対して、体重に応じた適切な投与量に調整する必要がある場合、錠剤を分割したり、散剤に調製して正確な用量を投与することができます。

 

事例3:皮膚疾患患者への外用薬調製
アトピー性皮膚炎などの患者さんに対して、ステロイド外用薬と保湿剤を混合して使いやすい濃度に調整するなど、患者の症状や好みに合わせた外用薬を調製することができます。

 

これらの自家製剤は、市販の医薬品では対応できない患者個々のニーズに応えるものであり、薬剤師の専門的な知識と技術が活かされる重要な業務です。患者さんにとっては、服用のしやすさや治療効果の向上、副作用リスクの軽減などのメリットがあります。

 

また、自家製剤を行う際には、患者さんに対して正しい保管方法や使用期限などの情報提供も重要です。特に剤形を変更した場合は、安定性が変わることがあるため、適切な指導が必要となります。

 

以上のように、自家製剤加算は単なる点数算定の問題ではなく、患者中心の医療を実践するための重要なツールとして位置づけられています。薬剤師は調剤技術を磨くとともに、患者さんの状態や生活環境を考慮した最適な製剤設計を心がけることが大切です。

 

自家製剤加算の算定要件や点数を正しく理解し、適切に運用することで、患者さんの薬物療法の質の向上に貢献することができるでしょう。