
疑義照会は薬剤師法第24条に明確に規定されている薬剤師の法的義務です。この条文では「薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない」と定められています。
つまり、処方箋に不明点や疑問点がある場合、薬剤師は必ず処方医に確認してから調剤を行わなければならないのです。これは単なる業務上のルールではなく、法律で定められた義務であり、患者の安全を守るための重要な役割です。
また、健康保険法においては、医師側にも「保険医は、その交付した処方箋に関し、保険薬剤師から疑義の照会があつた場合には、これに適切に対応しなければならない」という義務が課せられています。つまり、疑義照会は薬剤師と医師の双方に課せられた責任であり、医療の安全性を担保するための重要なプロセスなのです。
疑義照会は大きく分けて「形式的疑義照会」と「薬学的疑義照会」の2種類に分類されます。
【形式的疑義照会】
形式的疑義照会は、処方箋の記載不備に関する照会です。具体的には以下のようなケースが該当します。
【薬学的疑義照会】
薬学的疑義照会は、薬剤師が専門的知識を活かして行う、薬物療法の安全性や有効性に関わる照会です。主な対象となるケースは。
平成27年度の調査によると、疑義照会の発生割合は2.74%で、そのうち約22%が形式的疑義照会、約78%が薬学的疑義照会でした。さらに、薬学的疑義照会のうち約75%で処方変更が行われ、薬剤性過敏症候群や急性腎不全、出血傾向など重篤な副作用の回避につながったケースも報告されています。
疑義照会を行った場合、その内容を適切に記録することが法的に義務付けられています。記録は処方箋と薬歴の両方に残す必要があります。
【処方箋への記録】
処方箋には以下の情報を記載します。
記載方法は「【H20.2.2 AM9:00 Dr○○ tellにて ○○について問い合わせ ○○との回答 印】」のような形式で、通常は赤字で記入します。処方内容の変更がある場合、以前は処方欄に直接追加・削除を記入していましたが、現在は処方欄はいじらずに備考欄へ疑義照会として記載するのが一般的です。
【薬歴への記録】
薬歴にも同様の情報を記録します。以前は調剤録への記録も必須でしたが、現在は薬歴に記入していれば調剤録への記録は不要となっています。電子薬歴システムによっては、SOAPの欄とは別に疑義照会について記載する項目が設けられている場合もあります。
記録の際の注意点として、「医師に確認済み」「患者に確認済み」といった具体的内容が不十分な記載は避け、詳細な内容を記録することが重要です。また、疑義照会後の訂正印については、法律上明記されていないため必須ではありませんが、薬局のルールに従って対応しましょう。
疑義照会の最も重要な目的は「患者を健康被害から守る」ことです。薬剤師が処方内容の誤りや不適切な点を見逃してしまうと、患者に予期せぬ副作用や健康被害が生じる可能性があります。
平成27年度の調査では、薬学的疑義照会による処方変更によって、薬剤性過敏症候群や急性腎不全、出血傾向、消化性潰瘍、網膜・視覚障害などの重篤な副作用が回避されたケースが報告されています。このことからも、疑義照会が患者の安全を守る上で非常に重要な役割を果たしていることがわかります。
疑義を発見するタイミングとしては、「処方せんの内容確認時」が56.1%、「患者・家族等へのインタビュー(服薬指導時)」が42.4%、「薬歴の内容確認時」が14.6%という結果が出ています。このことから、処方せんや薬歴を見るだけでなく、服薬指導時に患者や家族と適切なコミュニケーションを取ることも疑義発見のために重要であることがわかります。
薬剤師は医療チームの一員として、処方医と連携しながら患者の薬物療法の安全性と有効性を確保する責任があります。疑義照会はその責任を果たすための重要なツールなのです。
疑義照会は重要な業務ですが、医師と薬剤師双方にとって時間と労力を要するプロセスでもあります。そこで、疑義照会の効率化と業務改善のためのポイントをいくつか紹介します。
【疑義照会を減らすための医師側の工夫】
【薬剤師側の効率化ポイント】
【疑義照会簡素化プロトコールの活用】
医療機関と薬局の間で「疑義照会簡素化プロトコール」を導入する動きも広がっています。これは、あらかじめ定められた一定の条件下では、医師への直接の疑義照会を省略できるようにするものです。例えば、一般名処方に基づく調剤や、特定の条件下での変更調剤などが対象となります。
このようなプロトコールを導入することで、医師・薬剤師双方の業務効率化と、患者の待ち時間短縮につながります。ただし、プロトコールの適用範囲を明確にし、変更内容は必ず記録して医療機関に情報提供することが重要です。
2024年の薬価制度改革により、長期収載品(先発医薬品で特許期間が満了したもの)と後発医薬品(ジェネリック医薬品)の取り扱いに関する疑義照会のルールが変更されました。この変更は薬剤師の日常業務に大きく影響するため、正確に理解しておく必要があります。
【医療上の必要性がある場合の長期収載品の取り扱い】
医療上の必要性があると認められる場合には、長期収載品を処方・調剤することが可能です。医療上の必要性が認められるケースとしては以下のようなものがあります。
【疑義照会の要否】
医師が長期収載品を銘柄名処方し、「変更不可(医療上必要)」欄に「?」または「×」が記載されていない場合、薬剤師が長期収載品を調剤する医療上の必要性があると判断する場合は、医療上の必要性の判断に基づいて対応します。
一方、医師が後発医薬品を銘柄名処方し、「変更不可(医療上必要)」欄に「?」または「×」が記載されていない場合に、薬剤師が長期収載品を調剤する医療上の必要があると考える場合は、変更調剤に該当します。2024年3月15日の厚生労働省事務連絡により、当面の間は疑義照会なしで変更調剤が可能とされています。
ただし、いずれの場合も調剤した薬剤の銘柄等について、処方箋を発行した医療機関に情報提供することが重要です。
【使用感に関する考慮】
使用感などの有効成分等と直接関係のない理由については、基本的には医療上の必要性としては想定されていません。ただし、医師が医療上の必要性があると判断した場合は、その判断が尊重されます。
このように、長期収載品と後発医薬品の取り扱いについては、医療上の必要性の判断が重要になります。薬剤師は最新の通知や事務連絡を確認し、適切に対応することが求められます。
長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈について詳しく解説されています
以上のように、疑義照会は薬剤師の法的義務であるとともに、患者の健康被害を防ぎ、適切な薬物療法を確保するための重要な業務です。適切な記録方法を守り、効率化のための工夫を取り入れながら、医師との良好な連携のもとで疑義照会を行うことが、薬剤師に求められています。