重複投薬・相互作用等防止加算イ(残薬以外)の算定と疑義照会の要件

重複投薬・相互作用等防止加算イ(残薬以外)の算定と疑義照会の要件

重複投薬・相互作用等防止加算イ(残薬以外)の算定と疑義照会の要件

重複投薬・相互作用等防止加算イ(残薬以外)の要点
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点数

40点(2024年度改定後も変更なし)

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算定要件

処方医への疑義照会により処方変更が行われた場合

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対象範囲

併用薬との重複、相互作用、その他薬学的観点から必要と認める事項

重複投薬・相互作用等防止加算イ(残薬以外)の算定要件と点数

重複投薬・相互作用等防止加算は、薬剤師が薬学的観点から処方内容を確認し、問題点を発見して処方医に疑義照会を行い、その結果処方変更が行われた場合に算定できる加算です。この加算は「イ:残薬調整に係るもの以外の場合」と「ロ:残薬調整に係るものの場合」の2区分に分かれています。

 

「イ:残薬調整に係るもの以外の場合」は40点で、2024年度の調剤報酬改定後も点数に変更はありませんでした。一方、「ロ:残薬調整に係るものの場合」は30点から20点へと減点されています。

 

算定の基本要件は以下の通りです。

  • 薬剤服用歴等または患者・家族からの情報に基づいて処方医へ連絡・確認を行うこと
  • その結果、処方変更が行われること
  • 処方箋受付1回につき1回のみ算定可能
  • 調剤管理料を算定していない場合は算定不可
  • 在宅患者訪問薬剤管理指導料などを算定している患者は対象外

特に「イ:残薬調整に係るもの以外の場合」の算定対象となるのは、以下の3つのケースです。

  1. 併用薬との重複投薬(薬理作用が類似する場合を含む)
  2. 併用薬、飲食物等との相互作用
  3. そのほか薬学的観点から必要と認める事項

これらの内容について処方医へ連絡・確認を行い、処方変更された場合に40点を算定できます。

 

重複投薬・相互作用等防止加算イ(残薬以外)の疑義照会対象となる具体例

「イ:残薬調整に係るもの以外の場合」で疑義照会の対象となる具体的なケースを詳しく見ていきましょう。

 

1. 併用薬との重複投薬(薬理作用が類似する場合を含む)

  • 同一有効成分の薬剤が複数処方されている場合
  • 異なる薬剤名でも薬理作用が同じ薬剤が処方されている場合
  • 同じクラスの薬剤が重複して処方されている場合(例:複数のACE阻害薬)
  • 自薬局で受け付けた別の処方箋との重複
  • 他薬局で調剤された薬剤との重複
  • 院内処方との重複

2. 併用薬、飲食物等との相互作用

  • 薬物間の相互作用(例:ワルファリンとNSAIDs)
  • 薬物と食品の相互作用(例:ワルファリンと納豆)
  • 薬物とサプリメントの相互作用
  • OTC薬との相互作用
  • 薬物と飲料の相互作用(例:テトラサイクリン系抗生物質と牛乳)

3. そのほか薬学的観点から必要と認める事項

  • アレルギー歴や副作用歴による処方変更
  • 年齢や体重による影響を考慮した処方変更
  • 肝機能、腎機能等による影響を考慮した処方変更
  • 授乳・妊婦への影響を考慮した処方変更
  • 薬学的観点からの薬剤の追加や投与期間の延長

疑義解釈資料(平成28年3月31日)によれば、「薬学的観点から薬剤の追加や投与期間の延長が行われた場合」も算定対象となります。ただし、薬局に在庫がないために処方変更を依頼した場合は算定対象外とされています。

 

重複投薬・相互作用等防止加算イ(残薬以外)の算定事例と記録方法

実際の算定事例を見ていきましょう。以下のようなケースでは「イ:残薬調整に係るもの以外の場合」として40点を算定できます。

 

事例1:併用薬との重複投薬

【状況】

患者Aさんが内科から処方されたロキソプロフェンNa錠60mgを持参。

 

整形外科からも同じロキソプロフェンNa錠60mgが処方されていることが判明。

 

【疑義照会内容】
「内科と整形外科からロキソプロフェンNa錠が重複して処方されています。

 

整形外科分の服用はどのようにすればよいでしょうか?」

 

【処方変更】
整形外科からのロキソプロフェンNa錠が削除された。

 

【薬歴記載例】
内科と整形外科からロキソプロフェンNa錠が重複処方されていることを確認。

 

Dr.に疑義照会し、整形外科分のロキソプロフェンNa錠は削除となった。

 

重複投薬・相互作用等防止加算イ(40点)算定。

 

事例2:相互作用の防止

【状況】

ワルファリンを服用中の患者Bさんに、NSAIDsであるロキソプロフェンNa錠が処方された。

 

【疑義照会内容】
「ワルファリン服用中ですが、ロキソプロフェンNaとの併用で出血リスクが高まる可能性があります。

 

代替薬としてアセトアミノフェンはいかがでしょうか?」

 

【処方変更】
ロキソプロフェンNa錠からアセトアミノフェン錠に変更された。

 

【薬歴記載例】
ワルファリン服用中にロキソプロフェンNaが処方。出血リスク上昇の可能性あり。

 

Dr.に疑義照会し、アセトアミノフェン錠に変更となった。

 

重複投薬・相互作用等防止加算イ(40点)算定。

 

事例3:薬学的観点からの処方変更

【状況】

腎機能低下のある患者Cさんにレボフロキサシン500mgが処方された。

 

【疑義照会内容】
「患者さんのeGFRが30ml/min/1.73m2であり、レボフロキサシンの用量調節が必要と考えられます。

 

250mgへの減量をご検討いただけますか?」

 

【処方変更】
レボフロキサシン500mgから250mgに変更された。

 

【薬歴記載例】
腎機能低下(eGFR 30ml/min/1.73m2)のある患者にレボフロキサシン500mgが処方。

 

Dr.に疑義照会し、レボフロキサシン250mgに減量となった。

 

重複投薬・相互作用等防止加算イ(40点)算定。

 

算定時には、処方医への問い合わせ内容や変更内容について薬歴に記載することが必須です。また、残薬や重複投薬が生じる原因について分析し、必要に応じて処方医へ情報提供することも求められています。

 

重複投薬・相互作用等防止加算イ(残薬以外)と薬剤の追加・投与期間延長の関係

「薬剤の追加や投与期間の延長」が行われた場合でも、重複投薬・相互作用等防止加算を算定できるのかという点は、多くの薬剤師が疑問に思うところです。

 

結論から言えば、薬学的観点から薬剤の追加や投与期間の延長が行われた場合は、「イ:残薬調整に係るもの以外の場合」として40点を算定できます

 

これについては、平成28年3月31日の疑義解釈資料で明確に示されています。

「薬剤師が薬学的観点から必要と認め、処方医に疑義照会した上で処方が変更された場合は算定可能である。具体的には、アレルギー歴や副作用歴などの情報に基づき処方変更となった場合、薬学的観点から薬剤の追加や投与期間の延長が行われた場合は対象となるが、保険薬局に備蓄がないため処方医に疑義照会して他の医薬品に変更した場合などは当てはまらない。」

例えば、以下のようなケースが考えられます。
事例4:薬学的観点からの薬剤追加

【状況】

強オピオイド鎮痛薬が処方された患者Dさんに、便秘対策の薬剤が処方されていない。

 

【疑義照会内容】
「オピオイド誘発性便秘のリスクがありますが、便秘対策の薬剤の追加をご検討いただけますか?」

 

【処方変更】
酸化マグネシウム錠が追加処方された。

 

【薬歴記載例】
オピオイド鎮痛薬使用中だが便秘対策薬が処方されていないことを確認。

 

Dr.に疑義照会し、酸化マグネシウム錠が追加となった。

 

重複投薬・相互作用等防止加算イ(40点)算定。

 

事例5:薬学的観点からの投与期間延長

【状況】

慢性疾患で定期的に通院している患者Eさんが、次回受診までの期間が処方日数より長いことを申し出た。

 

【疑義照会内容】
「次回受診が40日後とのことですが、処方日数が30日となっています。

 

安定した状態であり、投与期間の延長をご検討いただけますか?」

 

【処方変更】
処方日数が30日から40日に延長された。

 

【薬歴記載例】
次回受診が40日後だが処方日数が30日であることを確認。

 

Dr.に疑義照会し、処方日数が40日に延長となった。

 

重複投薬・相互作用等防止加算イ(40点)算定。

 

ただし、投与期間の延長については、「残薬調整に係るもの」と判断される可能性もあるため、薬学的観点から必要性を明確に説明できることが重要です。単に「薬が足りないから」という理由ではなく、治療の継続性や患者のアドヒアランス向上などの観点から説明できるようにしましょう。

 

重複投薬・相互作用等防止加算イ(残薬以外)の算定時の注意点と効率的な運用

重複投薬・相互作用等防止加算イ(残薬以外)を適切に算定するためのポイントと注意点をまとめます。

 

算定時の注意点

  1. 調剤管理料の算定が前提
    • 調剤管理料を算定していない場合は、重複投薬・相互作用等防止加算も算定できません。

       

  2. 処方箋受付1回につき1回のみ
    • 同時に複数の処方箋を受け付け、それぞれの処方箋について疑義照会を行い処方変更があった場合でも、算定できるのは1回のみです。

       

  3. 在宅患者は対象外
    • 在宅患者訪問薬剤管理指導料、在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料、在宅患者緊急時等共同指導料、居宅療養管理指導費、介護予防居宅療養管理指導費を算定している患者は対象外です。

       

    • これらの患者については、在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料を算定します。

       

  4. 薬歴への記載が必須
    • 処方医への問い合わせ内容や変更内容について薬歴に記載する必要があります。

       

    • 残薬や重複投薬が生じる理由を分析し、必要に応じて処方医へ情報提供することも求められています。

       

  5. 処方医の事務的な記載ミスは対象外
    • 処方医の事務的な記載ミスについては算定対象として想定されていません。

       

    • ただし、薬学的観点から必要と判断できることについては算定対象になり得ます。

       

効率的な運用のポイント

  1. 薬歴管理システムの活用
    • 過去の処方歴や併用薬のチェック機能を活用して、重複投薬や相互作用を効率的に発見しましょう。

       

  2. 疑義照会の文例集の作成
    • よくある疑義照会のパターンについて、文例集を作成しておくと効率的です。

       

  3. 薬歴記載のテンプレート化
    • 算定要件を満たす薬歴記載のテンプレートを作成しておくと、記録漏れを防ぐことができます。

       

  4. スタッフ間での情報共有
    • 算定事例や疑義照会のポイントについて、定期的にスタッフ間で情報共有する機会を設けましょう。

       

  5. 処方医とのコミュニケーション強化
    • 日頃から処方医とのコミュニケーションを密にしておくことで、疑義照会がスムーズに行えるようになります。

       

重複投薬・相互作用等防止加算イ(残薬以外)は、薬剤師の専門性を発揮し、患者さんの安全な薬物療法に貢献するための重要な評価指標です。適切な算定を通じて、薬局の経営面でもプラスとなるよう、日々の業務に活かしていきましょう。

 

疑義解釈資料の送付について(その1)平成28年3月31日|厚生労働省(薬剤の追加や投与期間の延長に関する解釈が記載されています)

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