
調剤基本料は、薬局が調剤を行う際の基本的な技術料として、処方箋の受付1回につき算定できる報酬です。この基本料は、医薬品の備蓄(廃棄や摩耗を含む)などの体制整備に関する経費を評価したものであり、薬局経営の効率性を踏まえて設定されています。
調剤報酬は2年に1度見直しが行われ、2024年度の改定では多くの変更点がありました。薬剤師として、または薬局経営者として、これらの変更点を正確に理解することは非常に重要です。
調剤基本料は大きく分けて5つの区分があります。2024年度の改定では、調剤基本料1・2・3の各区分で3点ずつの引き上げが行われました。これは地域医療に貢献する調剤薬局の役割を評価し、薬剤師や事務員の賃上げを促進し、人材確保を目的としています。
現在の調剤基本料の点数は以下の通りです。
区分 | 改定前 | 改定後(2024年度〜) |
---|---|---|
調剤基本料1 | 42点 | 45点 |
調剤基本料2 | 26点 | 29点 |
調剤基本料3(イ) | 21点 | 24点 |
調剤基本料3(ロ) | 16点 | 19点 |
調剤基本料3(ハ) | 32点 | 35点 |
特別調剤基本料A | 7点 | 5点 |
特別調剤基本料B | - | 3点 |
特に注目すべき点として、特別調剤基本料については、従来の7点から区分が細分化され、特別調剤基本料Aが5点、新設された特別調剤基本料Bが3点となりました。
調剤基本料の区分は、主に処方箋の受付回数と特定の医療機関からの処方箋集中率によって決定されます。それぞれの区分の算定要件を詳しく見ていきましょう。
調剤基本料1(45点)
調剤基本料2・3や特別調剤基本料A・Bが適用されない場合、または医療資源の少ない地域で運営する保険薬局が対象となります。一般的な調剤薬局の多くはこの区分に該当します。
調剤基本料2(29点)
以下のいずれかに該当する場合に算定します。
2024年度の改定では、新たに「ひと月における処?箋の受付回数が4,000回を超え、かつ処?箋受付回数が多い上位3つの保険医療機関に係る処?箋による調剤の割合の合計が7割を超える薬局」も調剤基本料2の対象となりました。これは、近隣に医療機関が集中していることで特定の医療機関からの処方箋が集中している、いわゆる医療モールと同様の環境にある薬局への見直しです。
調剤基本料3(イ・ロ・ハ)
調剤基本料3は、同一グループの薬局数が300店舗を超える場合や、一定の集中率の要件を満たすことで算定できる点数です。主に大規模なチェーン薬局が対象となり、個人経営や店舗数が少ない薬局は該当しません。
特別調剤基本料A(5点)
医療機関と同一敷地内にあり、処方箋集中率が50%を超える薬局が対象です。2024年度の改定で7点から5点に引き下げられました。
特別調剤基本料B(3点)
2024年度の改定で新設された区分で、調剤基本料の施設基準に係る届け出を行っていない薬局が対象となります。
調剤基本料の施設基準は、前年5月1日から当年4月末日までの1年間の処方箋受付回数の実績をもとに判断されます。この実績に基づいて、当年6月1日から翌年5月末日まで所定の点数を算定することができます。
ただし、前年5月1日以降に新規開局した薬局や特例に該当する薬局は、この限りではありません。新規開局の場合は、開局後の実績に基づいて判断されることになります。
施設基準の届出は、地方厚生局に対して行います。届出の際には、処方箋受付回数や集中率などの実績を証明する資料を添付する必要があります。届出を怠ると、特別調剤基本料Bの低い点数(3点)が適用されるため、注意が必要です。
また、病院との不動産賃貸借契約関係については、2016年9月30日以前、診療所との契約は2018年3月31日以前から契約関係にある場合は、不動産賃貸借関係があるとはみなされないという特例があります。この点も施設基準を考える上で重要なポイントです。
調剤基本料に加えて、薬局のサービスの質や地域医療への貢献度合いを評価するための加算制度があります。これらの加算を適切に活用することで、薬局の収益向上につながります。
地域支援体制加算
地域医療や在宅医療など、患者さんのニーズに合わせたさまざまな取り組みを行っている薬局に対して加算されます。2024年度の改定では、この加算の要件が見直されています。
連携強化加算
医療機関や他の薬局との連携を強化し、患者さんの薬物療法の安全性や有効性の向上に貢献している薬局に対して加算されます。
後発医薬品調剤体制加算
後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用促進に貢献している薬局に対して加算されます。ジェネリック医薬品の調剤数量割合に応じて点数が設定されています。
医療DX推進体制整備加算
2024年度の改定で新設された加算で、デジタル技術を活用した医療サービスの提供体制を整備している薬局に対して加算されます。
在宅薬学総合体制加算
在宅医療に積極的に取り組み、患者さんの自宅での薬物療法をサポートしている薬局に対して加算されます。こちらも2024年度の改定で新設された加算です。
これらの加算を適切に活用するためには、各加算の算定要件を正確に理解し、必要な体制を整備することが重要です。
2024年度の調剤報酬改定は、薬局経営に大きな影響を与えます。特に注目すべき点と対策を考えてみましょう。
基本料の引き上げによる収益増加
調剤基本料1〜3が3点ずつ引き上げられたことで、多くの薬局で収益増加が期待できます。1点=10円なので、処方箋1枚あたり30円の増収となります。月間の処方箋枚数に応じた収益増加を試算し、経営計画に反映させましょう。
特別調剤基本料の引き下げへの対応
特別調剤基本料Aが7点から5点に、特別調剤基本料Bが新設され3点となったことで、該当する薬局では収益減少が見込まれます。この影響を最小限に抑えるためには、集中率の見直しや地域医療への貢献度を高めるなどの対策が必要です。
調剤基本料2の対象範囲拡大への対応
処方箋受付回数が4,000回を超え、上位3医療機関からの集中率が70%を超える薬局が新たに調剤基本料2の対象となりました。該当する可能性のある薬局は、集中率の管理や地域の他の医療機関との連携強化などの対策を検討する必要があります。
加算の活用による収益向上
新設された医療DX推進体制整備加算や在宅薬学総合体制加算などを積極的に活用することで、収益向上を図ることができます。これらの加算の算定要件を満たすための体制整備を計画的に進めましょう。
地域医療への貢献度向上
地域支援体制加算や連携強化加算の要件が見直されたことで、地域医療への貢献度を高めることがより重要になっています。地域の医療機関や他の薬局との連携を強化し、在宅医療や健康サポート機能の充実を図りましょう。
調剤報酬改定は2年に1度行われますが、薬局を取り巻く環境は常に変化しています。今後の動向を予測し、先手を打った対応を考えることが重要です。
かかりつけ薬剤師・薬局機能の強化
今回の改定でも「かかりつけ」や「連携」といった文言が強く反映されており、今後もこの傾向は続くと予想されます。患者さんとの信頼関係を構築し、継続的な服薬指導や健康サポートを提供できる体制を整えることが重要です。
デジタル化への対応
医療DX推進体制整備加算の新設からも分かるように、薬局業務のデジタル化は今後さらに加速すると考えられます。電子処方箋やオンライン服薬指導などの新しい技術やサービスに積極的に対応していくことが求められます。
地域包括ケアシステムへの参画
高齢化社会の進展に伴い、地域包括ケアシステムにおける薬局・薬剤師の役割はますます重要になっています。医療機関や介護施設、地域の他の職種との連携を強化し、患者さんの生活を総合的にサポートする体制を構築しましょう。
専門性の向上
薬剤師の専門性を高めることも重要です。特定の疾患や薬物療法に関する専門知識を深め、患者さんや医療機関からより信頼される薬剤師を目指しましょう。専門・認定薬剤師の資格取得なども検討する価値があります。
経営効率化の推進
調剤基本料の区分は薬局経営の効率性を踏まえて設定されていることを忘れてはなりません。医薬品の在庫管理の効率化や業務プロセスの見直しなどを通じて、経営効率を高める取り組みも継続的に行うことが大切です。
調剤基本料の改定は、単なる点数の変更ではなく、薬局・薬剤師に求められる役割や機能の変化を反映したものです。これらの変化に適切に対応し、患者さんにとって真に価値のあるサービスを提供できる薬局を目指しましょう。
調剤基本料の仕組みを正しく理解し、適切な区分で算定することは、薬局経営の基本です。また、各種加算を積極的に活用することで、収益向上と同時に患者さんへのサービス向上を図ることができます。2024年度の改定内容を踏まえ、自分の薬局の現状を見直し、必要な対策を講じることが重要です。