閉塞性動脈硬化症の種類と症状及び治療法

閉塞性動脈硬化症の種類と症状及び治療法

閉塞性動脈硬化症の種類と症状

閉塞性動脈硬化症の基本情報
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疾患の定義

動脈硬化により血管内腔が狭窄・閉塞し、下肢の血流不全を引き起こす疾患

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主なリスク因子

喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常症、加齢

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患者特性

男性に多い(男女比9:1)、50歳以上に多発

閉塞性動脈硬化症の急性と慢性の種類

閉塞性動脈硬化症(ASO: Arteriosclerosis Obliterans)は、動脈硬化により血管内腔が狭窄または閉塞することで発症する疾患です。大きく分けると、発症の仕方によって「急性動脈閉塞」と「慢性動脈閉塞」の2種類に分類されます。

 

急性動脈閉塞は、突然血管が詰まることで発症します。代表的な疾患として「動脈塞栓症」があります。これは心臓や大動脈に付着した血栓が遊離して、手や足の血管に飛んでいき、突然血管を閉塞させる状態です。症状としては、突然手や足に強い痛みが生じ、冷たくなり、皮膚の色調が悪化します。時間が経過すると知覚や運動障害が現れ、適切な治療がなされないと壊死に至ることもあります。

 

一方、慢性動脈閉塞は徐々に進行する閉塞で、「閉塞性動脈硬化症」がこれに当たります。動脈硬化による動脈壁の肥厚が徐々に進行し、血管の狭窄や閉塞を引き起こします。通常はゆっくりと症状が進行しますが、急速に悪化することもあります。

 

薬剤師として患者さんに説明する際は、急性と慢性の違いを理解してもらうことが重要です。急性の場合は緊急性が高く、すぐに医療機関を受診する必要があることを強調しましょう。

 

閉塞性動脈硬化症の症状による分類と重症度

閉塞性動脈硬化症の症状は、重症度によって4段階(Fontaine分類)に分けられます。この分類は患者さんの症状の進行度を把握し、適切な治療方針を決定するために重要です。

 

【Fontaine分類による閉塞性動脈硬化症の重症度】

  • 第T度:四肢の冷感、しびれ感(ABI>0.7)
  • 第U度:間欠性跛行(かんけつせいはこう)
    • a:200m以上歩行可能
    • b:200m以下の歩行で症状出現(ABI 0.3〜0.7)
  • 第V度:安静時疼痛(ABI<0.3)
  • 第W度:指趾の潰瘍、壊死
    • a:虚血性潰瘍、壊死
    • b:感染性壊死、壊疽

    第T度は初期段階で、四肢の冷感やしびれ感を感じることがありますが、日常生活に支障をきたすほどではありません。この段階では患者さん自身が症状に気づかないことも多いです。

     

    第U度になると「間欠性跛行」という特徴的な症状が現れます。これは一定の距離を歩くと足の裏やふくらはぎに痛みが生じて歩けなくなりますが、しばらく休むと痛みが治まり、また歩けるようになる症状です。この症状は、運動時に筋肉が必要とする血液量が増加しますが、狭窄した血管ではその需要を満たせないために起こります。

     

    第V度では「安静時疼痛」が現れます。これは安静にしていても足に痛みを感じる状態で、夜間に痛みで眠れなくなるなど生活の質が著しく低下します。この段階では、下肢の動脈硬化が進行して血流が著しく減少し、安静時でも十分な酸素が足に届かなくなっています。

     

    第W度は最も重症で、血行不良により足の指や足先に潰瘍や壊死が生じます。この段階では組織の損傷が進行しており、最悪の場合は足の切断を余儀なくされることもあります。

     

    薬剤師として患者さんの症状を理解し、適切な段階に応じた服薬指導や生活指導を行うことが重要です。特に第U度の間欠性跛行の段階で適切な介入を行うことで、症状の進行を遅らせることができます。

     

    閉塞性動脈硬化症の診断と検査の種類

    閉塞性動脈硬化症の診断には、問診・視診から始まり、いくつかの特徴的な検査が行われます。薬剤師として、これらの検査について理解しておくことは、患者さんへの適切な情報提供に役立ちます。

     

    まず、医師は足の付け根の大腿動脈、膝の裏の膝窩動脈、足の甲の足背動脈、足首の後脛骨動脈の4箇所の拍動を触診で確認します。血管内腔が狭くなると拍動が弱まるため、これにより閉塞の程度や部位を推測できます。

     

    最も重要な検査の一つがABI(足関節上腕血圧比:Ankle Brachial Pressure Index)です。これは足関節の収縮期血圧を上腕の収縮期血圧で割った値で、正常値は1.00〜1.40です。0.90以下になると閉塞性動脈硬化症と診断され、値が低いほど重症と判断されます。

     

    【ABIの評価基準】

    • 1.00〜1.40:正常
    • 0.91〜0.99:境界値
    • 0.90以下:閉塞性動脈硬化症
    • 0.40〜0.90:中等度の閉塞
    • 0.40未満:重度の閉塞

    また、血流を評価するための検査として、脈波、皮膚灌流圧(SPP)、経皮酸素分圧などが行われます。運動負荷を加えて検査を行う場合もあります。

     

    画像診断としては、造影CTや動脈造影検査が行われ、狭窄や閉塞の正確な部位と程度を評価します。これらの検査結果に基づいて、治療方針が決定されます。

     

    薬剤師として、患者さんにこれらの検査の意義や重要性を説明し、定期的な検査の受診を促すことが大切です。特にABI検査は簡便で非侵襲的であり、閉塞性動脈硬化症のスクリーニングとして有用です。

     

    閉塞性動脈硬化症の治療法の種類と選択基準

    閉塞性動脈硬化症の治療は、症状の重症度や患者さんの全身状態に応じて選択されます。基本的な治療アプローチとして、生活習慣の改善、薬物療法、運動療法、そして重症例には血行再建術が行われます。

     

    【生活習慣の改善】
    閉塞性動脈硬化症の根本原因である動脈硬化の進行を抑制するために、以下の生活習慣改善が重要です。

    • 禁煙:喫煙は血管収縮作用があり、動脈硬化を促進します
    • 食事管理:塩分・脂質の摂取制限
    • 適度な運動:下肢の血流改善に効果的
    • 体重管理:肥満は動脈硬化のリスク因子です
    • 糖尿病、高血圧、脂質異常症の適切な管理

    【薬物療法】
    主に以下の薬剤が使用されます。

    1. 抗血小板薬
      • クロピドグレル硫酸塩
      • アスピリン
      • シロスタゾール(抗血小板作用に加え血管拡張作用も有する)
      • ベラプロストナトリウム
      • リマプロスト アルファデクス
      • サルポグレラート塩酸塩
    2. 血管拡張薬
      • プロスタグランジン製剤
      • 一酸化窒素関連薬
    3. その他
      • スタチン(脂質異常症治療薬)
      • 降圧薬
      • 血糖降下薬

    【運動療法】
    監視下運動療法が推奨されており、1日30分以上の歩行訓練を週3回、3カ月以上継続することが基本です。これにより側副血行路の発達を促し、下肢への血流改善が期待できます。

     

    【血行再建術】
    薬物療法や運動療法で症状が改善しない場合や、重症例(Fontaine分類のV度・W度)では、以下の血行再建術が検討されます。

    1. 血管内治療
      • バルーン拡張術
      • ステント留置術
      • アテレクトミー(プラーク除去術)
    2. バイパス手術
      • 自家静脈グラフト
      • 人工血管グラフト

    治療法の選択基準としては、Fontaine分類やRutherford分類による重症度評価、病変の部位や長さ、患者の全身状態や併存疾患などが考慮されます。

     

    薬剤師として重要なのは、患者さんの服薬コンプライアンスを高めることです。閉塞性動脈硬化症の患者さんは複数の薬剤を服用していることが多く、適切な服薬指導が治療成功の鍵となります。また、薬物療法だけでなく、生活習慣の改善や運動療法の重要性についても患者さんに説明し、包括的な治療アプローチを支援することが求められます。

     

    閉塞性動脈硬化症と他の血管疾患の種類の鑑別ポイント

    閉塞性動脈硬化症(ASO)は、他の血管疾患と症状が類似していることがあるため、正確な鑑別診断が重要です。薬剤師として、これらの疾患の違いを理解しておくことで、患者さんへの適切な情報提供や医療チームとの連携に役立てることができます。

     

    【バージャー病(閉塞性血栓血管炎:TAO)との鑑別】
    バージャー病は、主に若年(45歳未満)の喫煙者に発症する炎症性血管疾患です。ASOとの主な鑑別ポイントは以下の通りです。

    • 年齢:バージャー病は若年者(20〜40代)、ASOは高齢者(50代以上)に多い
    • 病変部位:バージャー病は中小動脈が主体、ASOは大中動脈が主体
    • 炎症所見:バージャー病では炎症反応が見られることがある
    • 病理所見:バージャー病では血管炎の所見がある
    • 併存疾患:ASOでは糖尿病や高血圧などの動脈硬化リスク因子を有することが多い

    【深部静脈血栓症(DVT)との鑑別】
    深部静脈血栓症は、下肢の静脈に血栓が形成される疾患で、下肢の腫脹や疼痛を主訴とします。ASOとの鑑別ポイントは。

    • 腫脹:DVTでは下肢の腫脹が顕著、ASOでは通常見られない
    • 皮膚色:DVTでは暗赤色・チアノーゼ、ASOでは蒼白
    • 疼痛の性質:DVTでは持続性の鈍痛、ASOでは間欠性跛行や安静時疼痛
    • 危険因子:DVTでは長期臥床、手術後、悪性腫瘍などが関連

    【レイノー現象/レイノー病との鑑別】
    レイノー現象は、寒冷や精神的ストレスにより指先の血管が過剰に収縮する状態です。ASOとの鑑別ポイントは。

    • 部位:レイノー現象は主に手指に発症、ASOは下肢に多い
    • 誘因:レイノー現象は寒冷や精神的ストレスで誘発、ASOは運動で症状が悪化
    • 色調変化:レイノー現象では典型的な三相性の色調変化(白→青→赤)が見られる
    • 可逆性:レイノー現象は通常可逆的、ASOは進行性

    【糖尿病性足病変との鑑別】
    糖尿病患者では、神経障害と血管障害が複合した足病変が見られることがあります。ASOとの鑑別ポイントは。

    • 神経症状:糖尿病性足病変では感覚低下が顕著、ASOでは通常感覚は保たれる
    • 潰瘍の部位:糖尿病性足病変では圧迫部位に好発、ASOでは末梢(足趾先端)に好発
    • 併存疾患:糖尿病の有無と罹患期間

    薬剤師として、これらの鑑別ポイントを理解しておくことで、患者さんの症状や検査結果から疾患の可能性を考え、適切な服薬指導や生活指導を行うことができます。また、患者さんが新たな症状を訴えた際に、重大な疾患の可能性を見逃さず、適切な医療機関への受診を促すことも重要な役割です。

     

    特に、閉塞性動脈硬化症の患者さんは他の血管疾患を合併していることも多いため、包括的な視点で患者さんの状態を評価し、多職種連携のもとで最適な薬物療法を提供することが求められます。

     

    閉塞性動脈硬化症患者の薬剤管理と服薬指導のポイント

    閉塞性動脈硬化症(ASO)の患者さんは、複数の薬剤を長期間服用することが多く、適切な薬剤管理と服薬指導が治療成功の鍵となります。薬剤師として知っておくべき重要なポイントを解説します。

     

    【服薬コンプライアンスの重要性】
    ASOの患者さんは、抗血小板薬や血管拡張薬に