急性腎不全の症状と原因による分類

急性腎不全の症状と原因による分類

急性腎不全の症状と原因

急性腎不全の基本情報
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定義

数日間から数週間で腎機能が急速に低下し、体内に窒素化合物が蓄積する病態

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主な症状

尿量減少、むくみ、全身倦怠感、吐き気、食欲不振、意識障害など

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分類

腎前性(血流低下)、腎性(腎実質障害)、腎後性(尿路閉塞)の3つに大別

急性腎不全(急性腎障害/AKI)は、腎機能が数時間から数日の間に急激に低下する病態です。従来は「急性腎不全」と呼ばれていましたが、現在では「急性腎障害(Acute Kidney Injury: AKI)」という名称が国際的に使用されるようになっています。この状態では、腎臓が老廃物を適切に排泄できなくなり、体内に様々な有害物質が蓄積することで多様な症状を引き起こします。

 

急性腎不全は救急医療が必要となる重篤な状態であり、適切な治療が行われないと生命に関わる合併症を引き起こす可能性があります。また、適切に治療されたとしても、慢性腎臓病(CKD)へ移行するリスクもあるため、急性期の治療だけでなく長期的な経過観察も重要となります。

 

薬剤師として急性腎不全の症状を理解することは、薬物療法の適正化や早期発見のために非常に重要です。特に腎排泄型の薬剤を使用している患者さんでは、急性腎不全の初期症状に注意を払う必要があります。

 

急性腎不全の主な症状と臨床所見

急性腎不全の症状は多岐にわたりますが、特徴的な症状としては以下のようなものが挙げられます。

  1. 尿量の変化
    • 乏尿(1日の尿量が500ml未満)
    • 無尿(1日の尿量が100ml未満)
    • 尿量正常の急性腎不全も存在(非乏尿性急性腎不全)
  2. 体液貯留に関連する症状
    • 体重の急激な増加
    • 顔や手足のむくみ(浮腫)
    • 呼吸困難(肺水腫による)
    • 高血圧
  3. 尿毒症症状(体内への老廃物蓄積による症状)
    • 全身倦怠感
    • 食欲不振
    • 吐き気・嘔吐
    • 意識レベルの低下(傾眠、錯乱)
    • けいれん
    • 出血傾向
  4. 電解質異常による症状
    • 高カリウム血症:不整脈、筋力低下
    • 代謝性アシドーシス:過呼吸
    • 低カルシウム血症:テタニー、痙攣

急性腎不全の症状は、原因や進行度によって異なります。初期段階では無症状のこともあり、血液検査で偶然発見されることもあります。そのため、リスク因子を持つ患者さんでは定期的な腎機能検査が重要です。

 

急性腎不全の症状経過と病期分類

急性腎不全の経過は一般的に以下の4つの病期に分けられます。
1. 前駆期(開始期)

  • 通常は尿量正常
  • 血清クレアチニン値の上昇が始まる
  • 原因因子(毒素摂取、低血圧など)によって期間は異なる
  • この段階では無症状のことが多い

2. 乏尿期(オリゴ無尿期)

  • 尿量が減少(典型的には50〜500mL/日)
  • 血清クレアチニンおよび尿素窒素値の上昇
  • 体液貯留による体重増加、むくみ
  • 高カリウム血症、代謝性アシドーシスの出現
  • 全身倦怠感、食欲不振、吐き気などの尿毒症症状

3. 多尿期(回復初期)

  • 尿量が増加
  • 腎機能は依然として低下している
  • 水分・電解質の喪失(特にナトリウム、カリウム)
  • 脱水のリスク
  • 血清クレアチニン値はまだ高値

4. 回復期

  • 腎機能が徐々に回復
  • 血清クレアチニン値が低下
  • 水・電解質バランスの正常化

重要なのは、すべての患者さんが典型的な経過をたどるわけではないということです。特に、非乏尿性急性腎不全では乏尿期が明確でなく、尿量が保たれたまま腎機能が低下することがあります。このような場合、尿量だけで腎機能を判断すると誤診につながる可能性があります。

 

急性腎不全の原因分類による症状の違い

急性腎不全は原因によって3つのタイプに分類され、それぞれ特徴的な症状や検査所見を示します。
1. 腎前性急性腎不全(腎臓への血流低下)

  • 原因:脱水、出血、心不全、ショックなど
  • 症状。
    • 脱水症状(口渇、皮膚乾燥、頻脈)
    • 起立性低血圧
    • 尿濃縮(高浸透圧尿)
    • 尿中ナトリウム濃度低下(<20 mEq/L)
    • BUN/Cr比の上昇(>20)

    2. 腎性急性腎不全(腎実質障害)

    • 原因:急性尿細管壊死(虚血性または腎毒性)、急性間質性腎炎、急速進行性糸球体腎炎など
    • 症状。
      • 尿中に赤血球・白血球・円柱
      • 尿中ナトリウム濃度上昇(>40 mEq/L)
      • 尿浸透圧の低下(等張尿)
      • BUN/Cr比の正常化(10-15)
      • 薬剤性の場合は発疹、発熱、好酸球増多を伴うことも

      3. 腎後性急性腎不全(尿路閉塞)

      • 原因:尿路結石、前立腺肥大、腫瘍、血栓など
      • 症状。
        • 側腹部痛
        • 排尿障害(頻尿、排尿困難)
        • 尿量の変動(無尿と多尿の交代)
        • 超音波検査で水腎症

        薬剤師として重要なのは、特に薬剤性の急性腎不全の症状に注意を払うことです。NSAIDs、アミノグリコシド系抗生物質、造影剤、カルシニューリン阻害薬などは腎毒性を持つことが知られており、これらの薬剤を使用している患者さんでは急性腎不全の症状に特に注意が必要です。

         

        急性腎不全の症状と電解質・酸塩基平衡異常

        急性腎不全では、腎臓の排泄・調節機能の障害により、様々な電解質異常や酸塩基平衡異常が生じます。これらの異常は独自の症状を引き起こし、時に生命を脅かすこともあります。

         

        1. カリウム代謝異常

        • 高カリウム血症(最も危険な電解質異常の一つ)
          • 症状:筋力低下、不整脈、心停止
          • 心電図変化:T波増高、QRS幅延長、P波平坦化
          • 血清K値 >6.5 mEq/Lでは緊急治療が必要

          2. ナトリウム・水分代謝異常

          • 低ナトリウム血症
            • 症状:頭痛、嘔気、錯乱、けいれん、昏睡
            • 希釈性低ナトリウム血症が多い
          • 体液過剰
            • 症状:浮腫、高血圧、頸静脈怒張、肺水腫

            3. 酸塩基平衡異常

            • 代謝性アシドーシス
              • 症状:過呼吸(Kussmaul呼吸)、意識障害
              • 重症例では心収縮力低下、不整脈、血管拡張

              4. カルシウム・リン代謝異常

              • 高リン血症
                • 症状:かゆみ、関節痛
                • カルシウム・リン積の上昇による軟部組織石灰化
              • 低カルシウム血症
                • 症状:テタニー、痙攣、QT延長

                5. マグネシウム代謝異常

                • 高マグネシウム血症
                  • 症状:深部腱反射低下、筋力低下、呼吸抑制

                  これらの電解質異常は、急性腎不全の治療において重要な管理ポイントとなります。特に高カリウム血症は致命的な不整脈を引き起こす可能性があるため、緊急対応が必要です。薬剤師は、カリウム保持性利尿薬やACE阻害薬、ARBなどカリウム値に影響を与える薬剤の管理に特に注意を払う必要があります。

                   

                  急性腎不全の症状と薬剤師の臨床的観点

                  薬剤師の視点から見た急性腎不全の症状管理と臨床的ポイントについて解説します。

                   

                  1. 薬剤性急性腎不全の早期発見

                  • ハイリスク薬剤使用患者のモニタリング
                    • NSAIDs(特に長期使用、高齢者、脱水状態)
                    • アミノグリコシド系抗生物質
                    • 造影剤(特にCKD患者)
                    • カルシニューリン阻害薬(タクロリムス、シクロスポリン)
                    • 抗がん剤(シスプラチンなど)
                  • 早期症状の把握
                    • 尿量減少
                    • 体重増加
                    • 浮腫
                    • 全身倦怠感

                    2. 薬物療法の適正化

                    • 腎機能に応じた投与量調整
                      • eGFRに基づく用量設定
                      • 透析患者での特殊な投与設計
                    • 腎毒性薬剤の回避または慎重投与
                    • 薬物相互作用の管理
                      • 特に腎排泄型薬剤同士の併用

                      3. 電解質異常への対応

                      • 高カリウム血症のリスク薬の管理
                        • カリウム保持性利尿薬
                        • ACE阻害薬/ARB
                        • カリウム含有製剤
                      • 電解質補正薬の適正使用
                        • カルシウム製剤
                        • 重炭酸ナトリウム

                        4. 患者教育と服薬指導

                        • 脱水予防の重要性
                          • 特に高齢者、夏季
                          • 下痢・嘔吐時の対応
                        • 腎機能低下時の自己判断による服薬中止の危険性
                        • OTC医薬品(特にNSAIDs)の適正使用

                        5. 多職種連携

                        • 腎機能低下の早期発見と情報共有
                        • 透析導入時の薬物療法調整
                        • 退院時の継続的なケア計画

                        薬剤師は、急性腎不全のリスク因子を持つ患者さんの薬物療法を最適化し、早期発見・予防に貢献することが重要です。特に、複数の腎毒性薬剤を使用している患者さんや、脱水リスクの高い高齢者では、積極的な介入が求められます。

                         

                        急性腎不全の症状は多様で、初期には非特異的なことも多いため、薬剤師は患者さんの訴えに注意深く耳を傾け、必要に応じて医師への報告や検査提案を行うことが重要です。

                         

                        急性腎不全の症状と予後に影響する因子

                        急性腎不全の予後は、原因や重症度、治療開始までの時間などによって大きく異なります。症状の進行度と予後に影響する因子について理解することは、臨床判断において重要です。

                         

                        1. 予後不良因子

                        • 高齢(65歳以上)
                        • 乏尿または無尿の存在
                        • 複数臓器不全の合併
                        • 敗血症の合併
                        • 血管収縮薬の使用
                        • 持続的な低血圧
                        • 基礎疾患としての慢性腎臓病
                        • 高度な代謝性アシドーシス

                        2. 急性腎不全の重症度分類(RIFLE基準)と予後

                        • Risk(リスク):血清Cr値が基礎値の1.5倍、または尿量<0.5mL/kg/時が6時間以上
                        • Injury(障害):血清Cr値が基礎値の2倍、または尿量<0.5mL/kg/時が12時間以上
                        • Failure(不全):血清Cr値が基礎値の3倍、または尿量<0.3mL/kg/時が24時間以上、または無尿が12時間以上
                        • Loss(喪失):4週間以上の持続的な腎機能喪失
                        • ESKD(末期腎不全):3ヶ月以上の腎機能喪失

                        重症度が上がるにつれて、死亡率や透析導入率、慢性腎臓病への移行リスクが上昇します。

                         

                        3. 回復の指標となる症状の改善

                        • 尿量の増加(多尿期への移行)
                        • 血清クレアチニン値の低下
                        • 電解質異常の改善
                        • 尿毒症症状の軽減

                        4. 長期的な予後と合併症

                        • 急性腎不全からの回復後も、約25%の患者が慢性腎臓病へ移行
                        • 急性腎不全の既往は将来の腎疾患リスク因子
                        • 心血管疾患リスクの上昇
                        • 再入院率の増加

                        薬剤師として、急性腎不全の予後に影響する薬剤関連因子に注意を払うことが重要です。特に、腎毒性薬剤の早期中止や代替薬への変更、腎機能に応じた投与量調整などは、予後改善に大きく