シスチン症の症状と腎臓への影響について

シスチン症の症状と腎臓への影響について

シスチン症の症状と診断

シスチン症の基本情報
??
遺伝性疾患

シスチン症は全身の細胞にシスチンが蓄積する稀な遺伝性疾患です

??
主な症状

腎臓障害、眼の角膜へのシスチン結晶沈着、甲状腺機能低下などが特徴的です

??
病型分類

腎障害型、中間型、非腎型の3つに分類されます

シスチン症(シスチン蓄積症、Cystinosis)は、全身の細胞内にシスチンというアミノ酸が蓄積する稀な遺伝性疾患です。この疾患は腎臓、眼の角膜、甲状腺、膵臓など様々な臓器に影響を及ぼします。シスチン症は約7,000〜10,000人に1人の割合で発症する稀少疾患であり、適切な診断と治療が重要です。

 

シスチン症は「シスチン尿症」と混同されることがありますが、これらは全く異なる疾患です。シスチン尿症はシスチンが尿中に過剰に排泄され腎結石を形成する疾患であるのに対し、シスチン症は細胞内にシスチンが蓄積する疾患です。薬剤師として両者の違いを理解し、患者さんに適切な情報提供ができるようにしましょう。

 

シスチン症の乳児期における症状

シスチン症は通常、乳児期から症状が現れ始めます。腎障害型(最も一般的な型)では、生後6ヶ月頃から以下のような症状が見られます。

  • ファンコーニ症候群(尿蛋白、尿糖、アミノ酸尿などの腎臓の症状)
  • 体重増加不良
  • 多飲多尿
  • 吐き気・嘔吐
  • 口渇(口が渇く)
  • 筋緊張低下
  • くる病

特に腎臓の近位尿細管機能障害によるファンコーニ症候群は、シスチン症の初期症状として重要です。ファンコーニ症候群では、尿中にブドウ糖、アミノ酸、リン酸、重炭酸塩などが過剰に排泄されます。これにより、電解質異常、代謝性アシドーシス、低リン血症性くる病などが引き起こされます。

 

乳児期のシスチン症患者は、哺乳力の低下や嘔吐により栄養摂取が不十分となり、成長障害を呈することがあります。また、多飲多尿や脱水症状も特徴的です。これらの症状は非特異的であるため、診断が遅れることがあります。薬剤師として、このような症状を示す乳幼児に対しては、シスチン症の可能性も考慮するよう医療チームに情報提供することが重要です。

 

シスチン症の眼症状と診断方法

シスチン症の特徴的な症状として、眼の角膜へのシスチン結晶の沈着があります。腎障害型では通常2歳頃までに角膜にシスチン結晶が沈着し、以下のような症状を引き起こします。

  • 羞明(まぶしさ)
  • 眼痛
  • 視力低下
  • 流涙

細隙灯顕微鏡検査によって角膜のシスチン結晶を確認することができ、これはシスチン症の診断において非常に重要な所見です。角膜のシスチン結晶は病型に関わらず見られるため、眼科検査はシスチン症の診断において重要な役割を果たします。

 

シスチン症の確定診断には、以下の検査が有用です。

  1. 白血球中のシスチン含量測定(最も確実な診断法)
  2. 遺伝子検査(CTNS遺伝子の変異解析)
  3. 角膜のシスチン結晶の確認
  4. 尿検査(ファンコーニ症候群の評価)

薬剤師として、シスチン症が疑われる患者に対して、これらの診断検査の重要性を理解し、医師や患者に適切な情報提供を行うことが求められます。

 

シスチン症の腎臓障害と進行

シスチン症における腎臓障害は、疾患の進行とともに変化します。初期には近位尿細管障害(ファンコーニ症候群)が主体ですが、治療せずに放置すると、徐々に糸球体機能も低下し、最終的には末期腎不全に至ります。

 

腎障害の進行過程。

  1. 近位尿細管障害(ファンコーニ症候群):乳児期〜幼児期
  2. 糸球体濾過率(GFR)の低下:幼児期〜学童期
  3. 末期腎不全:治療しない場合、10歳頃までに発症

腎障害型シスチン症では、治療を行わない場合、多くの患者が10歳頃までに末期腎不全に至ります。一方、中間型では発症年齢が遅く(通常10代)、腎不全の進行も緩やかで、10代後半から20代半ばで腎不全に至ります。非腎型では腎障害は伴わず、角膜のシスチン結晶による羞明のみが症状として現れます。

 

シスチン症患者の腎機能を評価するためには、定期的な腎機能検査(血清クレアチニン、eGFR、尿検査など)が必要です。また、電解質バランス、酸塩基平衡、ビタミンD代謝などの評価も重要です。薬剤師として、これらの検査値の意義を理解し、患者の腎機能に応じた薬物療法の調整に貢献することが求められます。

 

シスチン症の全身症状と合併症

シスチン症は進行とともに、腎臓や眼以外の臓器にもシスチンが蓄積し、様々な全身症状や合併症を引き起こします。主な全身症状と合併症には以下のようなものがあります。

  • 内分泌系障害
  • 甲状腺機能低下症
  • 糖尿病
  • 性腺機能低下症(男性の不妊、女性の月経不順)
  • 成長ホルモン分泌不全
  • 神経系障害
  • 筋萎縮
  • 嚥下障害
  • 言語障害
  • 認知機能障害
  • 消化器系障害
  • 膵外分泌不全
  • 肝脾腫
  • 消化管運動障害
  • その他
  • 骨粗鬆症
  • 心筋症
  • 肺機能障害

特に甲状腺機能低下症は比較的早期から見られる合併症であり、定期的な甲状腺機能検査が推奨されます。また、成長障害も重要な問題であり、成長ホルモン分泌不全の評価と適切な治療が必要となることがあります。

 

シスチン症の患者では、これらの全身症状や合併症に対応するために、多職種による包括的な医療管理が重要です。薬剤師としては、各合併症に対する薬物療法の適正使用を支援し、薬物間相互作用や副作用のモニタリングを行うことが求められます。

 

シスチン症とシスチン尿症の違いと薬物療法

シスチン症とシスチン尿症は名称が似ているため混同されることがありますが、病態生理、症状、治療法が全く異なる疾患です。薬剤師として両者の違いを明確に理解し、適切な薬物療法を支援することが重要です。

 

【シスチン症とシスチン尿症の比較】

項目 シスチン症 シスチン尿症
病態 細胞内にシスチンが蓄積 尿中にシスチンが過剰排泄され結石形成
遺伝子 CTNS遺伝子変異 SLC3A1、SLC7A9遺伝子変異
主症状 ファンコーニ症候群、角膜シスチン結晶 腎結石、疝痛発作
発症年齢 多くは乳幼児期 10〜30歳が多い
治療薬 システアミン チオラ(α-メルカプトプロピオニルグリシン)

シスチン症の薬物療法。
シスチン症の主要な治療薬はシステアミン(商品名:ニシスタゴン)です。システアミンは細胞内のシスチンと反応して水溶性の複合体を形成し、細胞外へ排出されるため、細胞内シスチン蓄積を減少させます。早期からのシステアミン治療により、腎機能低下の進行を遅らせ、全身症状の発現を抑制することができます。

 

システアミンには経口剤と点眼剤があり、経口剤は全身のシスチン蓄積に対して、点眼剤は角膜のシスチン結晶に対して使用されます。システアミンの主な副作用には、胃腸障害、口臭、皮膚発疹などがあります。特に硫黄臭のある口臭は服薬アドヒアランスに影響を与えることがあるため、薬剤師による適切な服薬指導が重要です。

 

一方、シスチン尿症の治療薬としては、チオラ(α-メルカプトプロピオニルグリシン)が使用されます。これはシスチンと結合して水溶性の複合体を形成し、尿中でのシスチン結石形成を予防します。

 

薬剤師として、これらの薬剤の作用機序、用法・用量、副作用、相互作用などを十分に理解し、患者に適切な情報提供と服薬指導を行うことが重要です。また、システアミンは希少疾病用医薬品であり、使用経験のある医療機関が限られているため、薬剤師が適正使用に関する情報収集と情報提供を積極的に行うことが求められます。

 

シスチン症の治療においては、システアミン以外にも、ファンコーニ症候群に対する電解質補充(重炭酸ナトリウム、リン酸塩、カリウム、カルシウムなど)や、合併症に対する対症療法(甲状腺ホルモン補充療法など)も重要です。薬剤師は、これらの補助療法についても適切に管理し、患者の生活の質向上に貢献することが求められます。

 

シスチノーシス(シスチン蓄積症)のひろば - 国立国際医療研究センター
シスチン症の基本情報、症状、診断、治療に関する詳細な情報が掲載されています。

 

シスチン症(シスチノーシス)診療ガイドライン2018 - Minds
シスチン症の診断基準や治療方針について詳細に記載されたガイドラインです。

 

シスチン症は稀少疾患であるため、一般の医療機関での診療経験が少なく、診断の遅れや不適切な治療が行われることがあります。薬剤師として、シスチン症に関する最新の知見を収集し、医療チームや患者に適切な情報提供を行うことが重要です。特に、早期診断・早期治療の重要性を認識し、疑わしい症状を示す患者に対しては、専門医への紹介を促すことも薬剤師の役割の一つと言えるでしょう。

 

シスチン症患者の多くは小児期から長期にわたる治療が必要となるため、成長発達に応じた服薬指導や、移行期医療(小児科から成人診療科への移行)における支援も重要です。薬剤師は、患者の年齢や理解度に応じた服薬指導を行い、自己管理能力の向上を支援することが求められます。

 

また、シスチン症は遺伝性疾患であるため、患者やその家族に対する遺伝カウンセリングの重要性も理解しておく必要があります。薬剤師として、遺伝に関する基本的な知識を持ち、必要に応じて専門家への紹介を行うことも重要です。

 

シスチン症の治療は生涯にわたって継続する必要があり、患者のQOL向上のためには、多職種による包括的な支援が不可欠です。薬剤師は薬物療法の専門家として、医師、看護師、栄養士、心理士などと連携し、患者中心の医療を提供することが求められます。