スタチン系薬剤一覧と脂溶性・水溶性の違いによる特徴

スタチン系薬剤一覧と脂溶性・水溶性の違いによる特徴

スタチン系薬剤一覧と特徴について

スタチン系薬剤の基本情報
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作用機序

HMG-CoA還元酵素を阻害し、肝臓でのコレステロール合成を抑制します

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分類

スタンダードスタチンとストロングスタチンの2種類に大別されます

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特性

脂溶性と水溶性があり、代謝経路や副作用プロファイルが異なります

スタチン系薬剤一覧とLDLコレステロール低下効果の比較

スタチン系薬剤は、HMG-CoA還元酵素阻害薬とも呼ばれ、現在日本では6種類が使用されています。これらは「スタンダードスタチン」と「ストロングスタチン」の2つのグループに分類されます。

 

【スタンダードスタチン】

  • プラバスタチン(商品名:メバロチン):5mg、10mg
  • シンバスタチン(商品名:リポバス):5mg、10mg、20mg
  • フルバスタチン(商品名:ローコール):10mg、20mg、30mg

【ストロングスタチン】

  • アトルバスタチン(商品名:リピトール):5mg、10mg
  • ピタバスタチン(商品名:リバロ):1mg、2mg、4mg
  • ロスバスタチン(商品名:クレストール):2.5mg、5mg

LDLコレステロール低下効果については、臨床試験の結果から以下のような差があることが分かっています。

  • スタンダードスタチン:約15?20%の低下
  • ストロングスタチン:約30?40%の低下

処方量の統計によると、2018年時点での処方順位は以下の通りです。

  1. ロスバスタチン(約10億4000万処方)
  2. アトルバスタチン(約8億6400万処方)
  3. ピタバスタチン(約4億7300万処方)
  4. プラバスタチン(約4億7100万処方)
  5. シンバスタチン(約8100万処方)
  6. フルバスタチン(約6000万処方)

この統計からも分かるように、ストロングスタチンが処方の上位を占めており、より強力なLDLコレステロール低下効果が求められていることが窺えます。

 

スタチン系薬剤の脂溶性と水溶性による分類と特徴

スタチン系薬剤は、その化学的特性により「脂溶性」と「水溶性」に分類されます。この特性の違いは、薬物動態や副作用プロファイルに影響を与えるため、患者さんの状態に応じた薬剤選択の重要な判断材料となります。

 

【水溶性スタチン】

  • プラバスタチン(メバロチン)
  • ロスバスタチン(クレストール)

【脂溶性スタチン】

  • シンバスタチン(リポバス)
  • フルバスタチン(ローコール)
  • アトルバスタチン(リピトール)
  • ピタバスタチン(リバロ)

水溶性スタチンの特徴。

  • 肝選択性が高い(肝臓に集中的に作用する)
  • 血液脳関門を通過しにくい
  • 筋肉への移行が少なく、筋肉関連の副作用が比較的少ない
  • CYP代謝の影響を受けにくいものがある(プラバスタチン)

脂溶性スタチンの特徴。

  • 組織移行性が高い(全身の組織に広く分布する)
  • 血液脳関門を通過しやすい
  • 筋肉への移行が多く、筋肉関連の副作用に注意が必要
  • CYP代謝の影響を受けやすいものがある(特にシンバスタチン、アトルバスタチン)

特筆すべき点として、プラバスタチンはCYP代謝を受けないため、他の薬剤との相互作用が少なく、肝機能障害のある患者にも比較的使いやすい特徴があります。一方、ロスバスタチンは水溶性でありながら、わずかにCYP2C9とCYP2C19の代謝を受けます。

 

スタチン系薬剤一覧と代謝経路・排泄経路の特徴

スタチン系薬剤の効果や副作用を理解する上で、各薬剤の代謝経路と排泄経路を知ることは非常に重要です。これらの特性は、特に他剤との併用や腎機能・肝機能障害のある患者さんへの処方を検討する際に参考になります。

 

【代謝経路と排泄経路】

一般名 代謝経路 主な排泄経路
プラバスタチン CYP代謝なし 胆汁排泄+腎排泄
シンバスタチン CYP3A4 肝代謝
フルバスタチン CYP2C9 肝代謝
アトルバスタチン CYP3A4 肝代謝
ピタバスタチン CYP2C9(わずか) 胆汁排泄
ロスバスタチン CYP2C9(わずか)、CYP2C19(わずか) 胆汁排泄

この代謝経路の違いにより、薬物相互作用のリスクが異なります。特に注意すべき点として。

  1. シンバスタチンとアトルバスタチンはCYP3A4で代謝されるため、グレープフルーツジュースとの併用に注意が必要です。グレープフルーツに含まれるフラノクマリンがCYP3A4を阻害し、これらの薬剤の血中濃度を上昇させる可能性があります。

     

  2. グレープフルーツのCYP3A4阻害作用は不可逆的で、回復までに数日かかるため、間隔をあけて摂取しても影響が出ることがあります。

     

  3. プラバスタチンはCYP代謝を受けないため、薬物相互作用が少なく、多剤併用が必要な患者さんに適しています。

     

  4. ピタバスタチンとロスバスタチンはCYP代謝の寄与率が低いため、CYP阻害薬との相互作用が比較的少ないです。

     

排泄経路については、腎機能障害のある患者さんには、腎排泄の少ない薬剤(ピタバスタチン、ロスバスタチンなど)が適していることがあります。ただし、重度の腎機能障害がある場合は、用量調整が必要になることがあります。

 

スタチン系薬剤一覧と併用禁忌・注意薬剤について

スタチン系薬剤を安全に使用するためには、併用禁忌薬や併用注意薬について理解しておくことが重要です。特に多剤併用が多い高齢者や複数の疾患を持つ患者さんでは、薬物相互作用に十分な注意が必要です。

 

【主な併用禁忌薬】

  1. シクロスポリン(免疫抑制剤)
    • ピタバスタチン(リバロ):併用禁忌
    • ロスバスタチン(クレストール):併用禁忌
    • その他のスタチン:併用注意
  2. マクロライド系抗生物質(エリスロマイシン、クラリスロマイシンなど)
    • 特にシンバスタチン、アトルバスタチンとの併用に注意
    • CYP3A4阻害によりスタチンの血中濃度上昇のリスク
  3. アゾール系抗真菌薬(イトラコナゾール、ミコナゾールなど)
    • 特にシンバスタチン、アトルバスタチンとの併用に注意
    • CYP3A4阻害によりスタチンの血中濃度上昇のリスク

【フィブラート系薬剤との併用について】
以前は、スタチン系薬剤とフィブラート系薬剤(ベザフィブラート、フェノフィブラートなど)の併用は「原則併用禁忌」とされていましたが、2018年10月16日の添付文書改訂により、この表記が削除されました。

 

現在は「併用注意」となっていますが、横紋筋融解症のリスク増加に注意が必要です。特に腎機能低下時には、定期的な腎機能検査や自覚症状(筋肉痛、脱力感)の確認が重要です。

 

シンバスタチン(リポバス)については、フィブラート系薬剤との併用時の1日上限が10mgに設定されています。

 

【グレープフルーツジュースとの相互作用】
前述のように、シンバスタチンとアトルバスタチンはグレープフルーツジュースとの併用に注意が必要です。研究によると、グレープフルーツジュース摂取により。

  • シンバスタチン:AUCが約15倍、Cmaxが約8倍上昇
  • アトルバスタチン:AUCが約1.5倍、Cmaxがわずかに上昇

このため、これらの薬剤を服用中はグレープフルーツジュースの摂取を避けるよう指導することが重要です。

 

スタチン系薬剤一覧と副作用モニタリングのポイント

スタチン系薬剤は比較的安全性の高い薬剤ですが、いくつかの重要な副作用があり、適切なモニタリングが必要です。薬剤師として患者さんの服薬指導や経過観察を行う際のポイントを解説します。

 

【主な副作用と発現頻度】

  1. 筋肉関連の副作用
    • 筋肉痛、筋力低下:比較的頻度が高い(5?10%程度)
    • 横紋筋融解症:非常に稀だが重篤(0.01%未満)

大規模研究によると、横紋筋融解症の実際の発現頻度は以下の通りです。

  • プラバスタチン:8136万処方で3例(約0.000004%)
  • ロスバスタチン:9919万処方で19例(約0.00002%)
  • アトルバスタチン:1億4036万処方で6例(約0.000004%)
  1. 肝機能障害
    • AST、ALT上昇:1?5%程度
    • 重篤な肝障害:非常に稀
  2. その他の副作用
    • 消化器症状(胃不快感、便秘、下痢など):5?10%程度
    • 皮膚症状(発疹、そう痒感など):1?5%程度
    • 頭痛、めまい:1?5%程度

【モニタリングのポイント】

  1. 筋肉関連の副作用
    • 定期的なCK(CPK)値の測定
    • 筋肉痛や脱力感などの自覚症状の確認
    • 特に高齢者、腎機能障害患者、フィブラート系薬剤との併用患者では注意深く観察
  2. 肝機能
    • 投与開始時および定期的な肝機能検査(AST、ALT)
    • 特に投与開始後3ヶ月間は注意深く観察
    • 基準値上限の3倍以上の上昇が見られた場合は、減量や中止を検討
  3. 腎機能
    • 特にロスバスタチンでは、重度の腎機能障害患者への投与は慎重に行う
    • 定期的な腎機能検査(血清クレアチニン、eGFRなど)
  4. 糖代謝
    • スタチン療法により糖尿病発症リスクがわずかに上昇するとの報告がある
    • 特に糖尿病リスク因子を持つ患者では、血糖値のモニタリングが重要

【患者指導のポイント】

  1. 服薬タイミング
    • 一般的に就寝前の服用が推奨される(コレステロール合成が夜間に活発になるため)
    • ただし、半減期の短いプラバスタチンは1日2回投与も可能
  2. 副作用の早期発見
    • 筋肉痛や脱力感、尿の色の変化(赤褐色)などの症状が現れた場合は、すぐに医療機関に相談するよう指導
    • 黄疸、強い倦怠感、食欲不振などの肝機能障害を疑う症状にも注意
  3. 生活習慣の改善
    • スタチン療法と並行して、食事療法や運動療法の継続が重要
    • 特に飽和脂肪酸や糖質の過剰摂取を避け、野菜や食物繊維の摂取を増やすよう指導

スタチン系薬剤は、適切に使用すれば心血管イベントの予防に非常に有効な薬剤です。薬剤師として、患者さんの状態に合わせた服薬指導と副作用モニタリングを行うことで、安全かつ効果的な治療をサポートすることが重要です。

 

スタチン系薬剤の安全性と有効性に関する詳細な研究論文