薬剤性過敏症候群の症状と診断基準

薬剤性過敏症候群の症状と診断基準

薬剤性過敏症候群の症状と特徴

薬剤性過敏症候群の主な特徴
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高熱

38℃以上の発熱が持続

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全身性の皮疹

紅斑、丘疹が融合し拡大

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臓器障害

肝機能障害、腎機能障害など

薬剤性過敏症候群の皮膚症状と全身症状

薬剤性過敏症候群(DIHS: Drug-induced hypersensitivity syndrome)は、重篤な薬疹の一種です。その特徴的な症状には、以下のようなものがあります。

  1. 皮膚症状。
    • 全身性の紅斑
    • 顔面の浮腫
    • 丘疹や小水疱の出現
  2. 全身症状。
    • 38℃以上の高熱が持続
    • 全身倦怠感
    • リンパ節腫脹(特に頸部、腋窩、鼠径部)

これらの症状は、原因薬剤の投与開始から通常2週間以上経過してから出現することが多く、薬剤中止後も症状が遷延するのが特徴です。

 

薬剤性過敏症候群の臓器障害と血液検査異常

DIHSでは、皮膚症状だけでなく、様々な臓器障害を伴うことがあります。

  1. 肝機能障害。
    • AST、ALT、γ-GTPの上昇
    • 重症例では黄疸の出現
  2. 腎機能障害。
    • 血清クレアチニン、BUNの上昇
    • 尿蛋白、尿潜血の出現
  3. 血液学的異常。
    • 白血球増多(特に好酸球増多)
    • 異型リンパ球の出現
    • 血小板減少
  4. その他の臓器障害。
    • 間質性肺炎
    • 心筋炎
    • 甲状腺機能異常

これらの臓器障害は、症例によって様々な程度で出現し、時に致命的となることもあります。

 

薬剤性過敏症候群の診断基準と鑑別疾患

DIHSの診断には、以下の診断基準が用いられます(日本皮膚科学会の診断基準2005年版)。

  1. 限られた薬剤投与後に遅発性に生じ、急速に拡大する紅斑
  2. 原因薬剤中止後も2週間以上遷延する症状
  3. 38℃以上の発熱
  4. 肝機能障害
  5. 血液学的異常(白血球増多、異型リンパ球出現、好酸球増多)
  6. リンパ節腫脹
  7. HHV-6の再活性化

典型DIHSは上記7項目全てを満たし、非典型DIHSは1-5を満たす場合とされています。

 

鑑別疾患としては以下のようなものがあります。

  • Stevens-Johnson症候群(SJS)
  • 中毒性表皮壊死症(TEN)
  • 急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP)
  • ウイルス性発疹症(麻疹、伝染性単核球症など)

これらの疾患との鑑別には、詳細な病歴聴取、皮膚所見の観察、血液検査、皮膚生検などが重要となります。

 

薬剤性過敏症候群の原因薬剤と発症メカニズム

DIHSの原因となる薬剤は比較的限られており、主に以下のようなものが知られています。

  1. 抗てんかん薬。
    • カルバマゼピン
    • フェニトイン
    • フェノバルビタール
    • ラモトリギン
  2. 抗菌薬。
    • ミノサイクリン
    • サルファ剤
  3. 痛風治療薬。
    • アロプリノール
  4. その他。
    • ジアフェニルスルホン
    • メキシレチン

これらの薬剤に対する免疫反応が、DIHSの発症に関与していると考えられています。特に、特定のHLA(ヒト白血球抗原)タイプとの関連が指摘されており、例えば日本人ではHLA-A*31:01とカルバマゼピンによるDIHSの関連が報告されています。

 

発症メカニズムについては、以下のような仮説が提唱されています。

  1. 薬剤特異的T細胞の活性化
  2. ウイルスの再活性化(特にHHV-6)
  3. 制御性T細胞の機能低下
  4. サイトカインストームの誘導

これらの要因が複雑に絡み合い、DIHSの多彩な症状を引き起こすと考えられています。

 

薬剤性過敏症候群の治療と薬剤師の役割

DIHSの治療の基本は以下の通りです。

  1. 原因薬剤の中止
  2. ステロイド全身投与(プレドニゾロン換算で0.5-1.0 mg/kg/日から開始)
  3. 対症療法(解熱鎮痛薬、抗ヒスタミン薬など)
  4. 臓器障害に対する支持療法

ステロイドの減量は慎重に行う必要があり、急激な減量はHHV-6の再活性化や症状の再燃を引き起こす可能性があります。

 

薬剤師の役割としては、以下のような点が重要です。

  1. 原因薬剤の特定と中止の提案
  2. 代替薬の提案と相互作用チェック
  3. ステロイド療法のモニタリングと副作用対策
  4. 患者教育(再発予防、自己管理など)
  5. 医療チームとの連携(皮膚科、内科、臨床検査部門など)

特に、DIHSの原因薬剤は比較的限られているため、薬歴管理と処方監査の際に注意深くチェックすることが重要です。また、DIHSの既往がある患者に対しては、交差反応性のある薬剤の使用を避けるなど、適切な薬剤選択のサポートが求められます。

 

薬剤性過敏症候群は、その重篤性と多彩な症状から、早期発見と適切な対応が極めて重要です。薬剤師は、その専門性を活かし、医療チームの一員として患者の安全な薬物療法に貢献することが期待されています。

 

薬剤性過敏症症候群(DIHS)の最新の知見についての詳細な解説
薬剤性過敏症症候群に関する患者向け情報(PMDA)
以上、薬剤性過敏症候群の症状、診断基準、原因薬剤、治療法について詳しく解説しました。薬剤師として、この重篤な副作用に対する理解を深め、適切な対応ができるよう、常に最新の情報をアップデートしていくことが重要です。また、医療チームの中で薬剤の専門家としての役割を果たし、患者さんの安全な薬物療法に貢献していくことが求められています。

 

参考文献: Shiohara T, et al. Drug-induced hypersensitivity syndrome (DIHS): a reaction induced by a complex interplay among herpesviruses and antiviral and antidrug immune responses. Allergol Int. 2006;55(1):1-8. Husain Z, et al. DRESS syndrome: Part I. Clinical perspectives. J Am Acad Dermatol. 2013;68(5):693.e1-14. Cacoub P, et al. The DRESS syndrome: a literature review. Am J Med. 2011;124(7):588-97. 橋本公二. Stevens-Johnson症候群、toxic epidermal necrolysis(TEN)とhypersensitivity syndromeの診断基準および治療指針の研究. 厚生科学特別研究事業 平成17年度総括研究報告, 2005. Ozeki T, et al. Genome-wide association study identifies HLA-A*3101 allele as a genetic risk factor for carbamazepine-induced cutaneous adverse drug reactions in Japanese population. Hum Mol Genet. 2011;20(5):1034-41. Funck-Brentano E, et al. Therapeutic management of DRESS: a retrospective study of 38 cases. J Am Acad Dermatol. 2015;72(2):246-52.