

現在、日本で承認されているSGLT2阻害薬は6種類あります。いずれも2型糖尿病の治療薬として開発されましたが、近年では心不全や慢性腎臓病への適応も拡大しています。各薬剤の特徴を理解し、患者さんの状態に合わせた最適な選択が求められます。
SGLT2阻害薬の全製品を一覧表にまとめました。2025年4月時点の情報です。
| 一般名 | 商品名(製薬会社) | 規格 | 薬価(円/錠) | 
|---|---|---|---|
| ダパグリフロジン | フォシーガ(アストラゼネカ) | 5mg 10mg  | 
169.9 250.7  | 
| カナグリフロジン | カナグル(田辺三菱製薬) | 100mg 100mg OD錠  | 
158.5 158.5  | 
| エンパグリフロジン | ジャディアンス(日本ベーリンガーインゲルハイム) | 10mg 25mg  | 
188.9 322.6  | 
| イプラグリフロジン | スーグラ(アステラス製薬) | 25mg 50mg  | 
113.9 170.4  | 
| ルセオグリフロジン | ルセフィ(大正製薬) | 2.5mg 5mg 2.5mg ODフィルム  | 
149.0 220.8 149.0  | 
| トホグリフロジン | デベルザ(興和) | 20mg | 164.1 | 
薬価の観点からみると、イプラグリフロジン(スーグラ)が比較的安価である一方、エンパグリフロジン(ジャディアンス)の高用量は最も高価格となっています。ただし、薬価だけでなく、各薬剤の特性や患者さんの状態に応じた選択が重要です。
SGLT2阻害薬の作用機序は、他の糖尿病治療薬とは大きく異なります。インスリン分泌を促進するのではなく、腎臓での糖の再吸収を阻害することで血糖値を下げる仕組みです。
具体的には、腎臓の近位尿細管に存在するナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)を選択的に阻害します。通常、腎臓で濾過されたグルコースの約90%はSGLT2によって再吸収されますが、SGLT2阻害薬はこの過程を妨げることで尿中へのグルコース排泄を促進します。
血糖降下作用以外にも、以下のような多面的な効果が報告されています。
これらの多面的効果により、SGLT2阻害薬は単なる血糖降下薬を超えた「多臓器保護薬」としての位置づけが確立されつつあります。
SGLT2阻害薬は当初2型糖尿病の治療薬として承認されましたが、大規模臨床試験の結果を受けて、心不全や慢性腎臓病への適応も拡大しています。各薬剤の適応症を比較してみましょう。
| 商品名 | 2型糖尿病 | 1型糖尿病 | 慢性心不全 | 慢性腎臓病 | 
|---|---|---|---|---|
| フォシーガ | ○ | ○ (用量:10mg)  | 
○ (eGFR≧25)  | 
|
| カナグル | ○ | × | ○ (糖尿病合併、eGFR≧30)  | 
|
| ジャディアンス | ○ | × | ○ (用量:10mg)  | 
○ (eGFR≧20)  | 
| スーグラ | ○ | × | ||
| ルセフィ | ○ | × | ||
| デベルザ | ○ | × | 
各薬剤の特徴に基づいた使い分けのポイントは以下の通りです。
SGLT2阻害薬の薬物動態特性を理解することは、適切な薬剤選択や相互作用の予測に役立ちます。各薬剤の代謝経路、最高血中濃度到達時間(Tmax)、半減期(T1/2)を比較してみましょう。
| 一般名 | 主な代謝経路 | Tmax (時間) | T1/2 (時間) | 
|---|---|---|---|
| イプラグリフロジン | UGT2B7によるグルクロン酸抱合 | 1.43±1.86 | 14.97±4.58 | 
| ダパグリフロジン | UGT1A9 | 1.25 | 12.1 | 
| ルセオグリフロジン | CYP3A4/5, 4A11, 4F2, 4F3B UGT1A1, 1A8, 1A9  | 
1.11±0.546 | 11.2±1.05 | 
| トホグリフロジン | CYP2C18, 4A11, 4F3B | 1.00±0.000 | 5.29±0.508 | 
| カナグリフロジン | UGT1A9, 2B4 | 1.0 | 10.2 | 
| エンパグリフロジン | UGT2B7, 1A3, 1A8, 1A9 | 1.50 | 9.88 | 
代謝経路の違いによる臨床的意義。
特に注意すべき薬物相互作用として、カナグリフロジンはP-糖タンパク質を阻害するため、ジゴキシンとの併用でジゴキシンの血中濃度が上昇する可能性があります(Cmax 36%増加、AUC 20%増加)。また、リファンピシン、フェニトイン、フェノバルビタール、リトナビルなどのUGT誘導薬との併用により、カナグリフロジンの血中濃度が低下する可能性があります。
SGLT2阻害薬の単剤使用に加えて、DPP-4阻害薬との配合剤も複数承認されています。これらの配合剤は服薬錠数の減少によるアドヒアランス向上が期待できますが、用量調節の柔軟性が制限されるという特徴があります。
現在日本で承認されているSGLT2阻害薬の配合剤は以下の通りです。
| 製品名 | 配合成分 | 用法 | 
|---|---|---|
| カナリア | カナグリフロジン + テネリグリプチン (DPP-4阻害薬)  | 
1日1回 | 
| スージャヌ | イプラグリフロジン + シタグリプチン (DPP-4阻害薬)  | 
1日1回 | 
| トラディアンス | エンパグリフロジン + リナグリプチン (DPP-4阻害薬)  | 
1日1回 | 
配合剤使用の際の注意点。
最新の処方動向として、SGLT2阻害薬は単なる血糖降下薬としてだけでなく、心腎保護を目的とした処方が増加しています。特に、慢性心不全患者や腎機能低下患者に対して、糖尿病の有無にかかわらず処方されるケースが増えています。
2023年の米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)のガイドラインでは、駆出率の保たれた心不全(HFpEF)および駆出率の低下した心不全(HFrEF)の両方に対して、SGLT2阻害薬がクラスI推奨