DPP-4阻害薬一覧とインクレチン作用機序の解説

DPP-4阻害薬一覧とインクレチン作用機序の解説

DPP-4阻害薬一覧と作用機序

DPP-4阻害薬の基本情報
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作用機序

インクレチン(GLP-1・GIP)の分解を阻害し、血糖値依存的にインスリン分泌を促進

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特徴

低血糖リスクが低く、体重増加が少ない経口血糖降下薬

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種類

現在9種類の成分が国内で承認・販売されている

DPP-4阻害薬は2型糖尿病治療薬として広く使用されている経口血糖降下薬です。この薬剤群は、体内でインクレチンホルモンを分解するDPP-4(Dipeptidyl Peptidase-4)酵素の働きを阻害することで血糖コントロールを改善します。日本では現在9種類のDPP-4阻害薬が承認されており、それぞれ特徴が異なります。

 

この記事では、DPP-4阻害薬の一覧と各薬剤の特徴、作用機序、配合剤について詳しく解説します。薬剤師として服薬指導や処方提案を行う際に役立つ情報を網羅的にまとめました。

 

DPP-4阻害薬の作用機序とインクレチン効果

DPP-4阻害薬の作用機序を理解するには、まずインクレチンホルモンについて知る必要があります。インクレチンとは、食事摂取時に消化管から分泌されて膵β細胞からのインスリン分泌を促進するホルモンの総称です。主に以下の2種類があります。

  1. GLP-1(Glucagon-like peptide-1):下部小腸のL細胞から分泌
  2. GIP(Glucose-dependent insulinotropic polypeptide):上部小腸のK細胞から分泌

これらのインクレチンホルモンには以下のような作用があります。

  • 血糖値依存的なインスリン分泌促進
  • グルカゴン分泌抑制(GLP-1のみ)
  • 胃排出遅延(GLP-1のみ)
  • 食欲抑制(GLP-1のみ)
  • 膵β細胞の保護・増殖促進

しかし、これらのホルモンは体内のDPP-4酵素によって速やかに分解されます(GLP-1の半減期は約2分、GIPは約5分)。DPP-4阻害薬はこの分解酵素の働きを阻害することで、インクレチンホルモンの血中濃度を高め、その作用を延長させます。

 

重要なのは、インクレチンホルモンによるインスリン分泌促進作用は血糖値依存的であるという点です。つまり、血糖値が正常または低い場合にはインスリン分泌を促進しないため、SU薬などと比較して低血糖のリスクが低いという特徴があります。

 

DPP-4阻害薬一覧と各薬剤の特徴比較

現在、日本で承認されているDPP-4阻害薬は9種類あります。以下に各薬剤の特徴を一覧表にまとめました。

 

一般名 商品名 用法・用量 規格 代謝・排泄経路 腎機能障害時の用量調節
シタグリプチン ジャヌビア
グラクティブ
1日1回 12.5mg/25mg/50mg/100mg 腎排泄型(約87%が未変化体として尿中排泄) 中等度腎障害:1/2量
高度腎障害:1/4量
ビルダグリプチン エクア 1日2回 50mg 腎排泄型(主に代謝物として尿中排泄) 中等度・高度腎障害:1日1回
アログリプチン ネシーナ 1日1回 6.25mg/12.5mg/25mg 腎排泄型(約73%が未変化体として尿中排泄) 中等度腎障害:1/2量
高度腎障害:1/4量
リナグリプチン トラゼンタ 1日1回 5mg 肝排泄型(80%が糞中排泄) 調節不要
テネリグリプチン テネリア 1日1回 20mg/40mg 肝腎排泄型(尿中45%、糞中47%) 調節不要
アナグリプチン スイニー 1日2回 100mg 腎排泄型(73%が尿中排泄) 高度腎障害:1日1回
サキサグリプチン オングリザ 1日1回 2.5mg/5mg 腎排泄型(75%が尿中排泄) 中等度・高度腎障害:1/2量
トレラグリプチン ザファテック 週1回 50mg/100mg 腎排泄型(76%が尿中排泄) 中等度腎障害:1/2量
高度腎障害:1/4量
オマリグリプチン マリゼブ 週1回 12.5mg/25mg 腎排泄型(74%が尿中排泄) 高度腎障害:1/2量

これらの薬剤は代謝・排泄経路によって大きく2つのグループに分けられます。

  1. 腎排泄型:シタグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン、アナグリプチン、サキサグリプチン、トレラグリプチン、オマリグリプチン
  2. 肝排泄型:リナグリプチン
  3. 肝腎排泄型:テネリグリプチン

腎排泄型の薬剤は腎機能障害患者に使用する際に用量調節が必要になることが多いため、患者の腎機能に応じた薬剤選択が重要です。一方、リナグリプチンは主に肝臓で代謝され糞中に排泄されるため、腎機能障害患者でも用量調節が不要という特徴があります。

 

DPP-4阻害薬の配合剤一覧と使い分け

DPP-4阻害薬は単剤での使用だけでなく、他の糖尿病治療薬との配合剤としても多数承認されています。配合剤は服薬錠数の減少によるアドヒアランス向上や、異なる作用機序を持つ薬剤の組み合わせによる相乗効果が期待できます。

 

現在日本で承認されているDPP-4阻害薬を含む主な配合剤は以下の通りです。

配合剤商品名 配合成分 特徴
スージャヌ シタグリプチン + イプラグリフロジン(SGLT2阻害薬 インスリン分泌促進と尿糖排泄促進の併用
エクメット ビルダグリプチン + メトホルミン(ビグアナイド薬) インスリン分泌促進とインスリン抵抗性改善の併用
イニシンク アログリプチン + メトホルミン(ビグアナイド薬) インスリン分泌促進とインスリン抵抗性改善の併用
リオベル アログリプチン + ピオグリタゾン(チアゾリジン薬) インスリン分泌促進とインスリン感受性改善の併用
カナリア テネリグリプチン + カナグリフロジン(SGLT2阻害薬) インスリン分泌促進と尿糖排泄促進の併用
メトアナ アナグリプチン + メトホルミン(ビグアナイド薬) インスリン分泌促進とインスリン抵抗性改善の併用

配合剤の選択にあたっては、患者の病態(インスリン分泌不全優位型かインスリン抵抗性優位型か)、合併症の有無、副作用リスクなどを考慮する必要があります。例えば。

  • インスリン抵抗性が強い肥満患者:DPP-4阻害薬 + メトホルミンまたはSGLT2阻害薬の配合剤が有用
  • 心血管リスクの高い患者:SGLT2阻害薬との配合剤が心血管イベント抑制の観点から有用かもしれない
  • 腎機能障害患者:メトホルミンとの配合剤は腎機能に応じた注意が必要

配合剤は利便性が高い一方で、個々の成分の用量調節が制限されるため、患者の状態に応じた適切な選択が求められます。

 

DPP-4阻害薬の副作用と安全性プロファイル

DPP-4阻害薬は一般的に忍容性が高く、重篤な副作用が少ない薬剤として知られていますが、いくつかの注意すべき副作用があります。

 

主な副作用

  • 低血糖(特にSU薬との併用時)
  • 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)
  • 上気道感染
  • 皮膚症状(発疹、掻痒感など)
  • 膵炎(稀だが注意が必要)
  • 関節痛

特に注意すべき副作用として、急性膵炎があります。DPP-4阻害薬と急性膵炎の関連性については議論がありますが、上腹部痛や背部痛などの膵炎を疑う症状が現れた場合は注意が必要です。また、過去に膵炎の既往がある患者への投与は慎重に行う必要があります。

 

また、DPP-4はT細胞の活性化に関与するCD26としても知られており、免疫系への影響も理論的には考えられます。しかし、現時点では臨床的に問題となるような免疫抑制作用は報告されていません。

 

SU薬との併用時には低血糖リスクが高まるため、SU薬の減量を検討する必要があることも重要なポイントです。

 

DPP-4阻害薬一覧と週1回製剤の臨床的位置づけ

DPP-4阻害薬の中で、トレラグリプチン(ザファテック)とオマリグリプチン(マリゼブ)は週1回投与の製剤として開発されました。これらの薬剤は、従来の毎日服用するDPP-4阻害薬と比較して、どのような臨床的位置づけにあるのでしょうか。

 

週1回製剤のメリット

  1. 服薬回数の減少によるアドヒアランス向上
  2. 多剤併用療法中の患者の服薬負担軽減
  3. 認知機能低下患者や介護が必要な患者での管理の簡便化

トレラグリプチンとオマリグリプチンはともに強力かつ持続的なDPP-4阻害作用を示し、週1回の服用でも十分な血糖コントロール効果が得られることが臨床試験で確認されています。

 

一方で、これらの週1回製剤は腎排泄型であるため、腎機能障害患者では用量調節が必要です。また、服薬を忘れた場合の対応(気づいた時点で服用し、次回から通常のスケジュールに戻る)についても患者教育が重要です。

 

週1回製剤は特に以下のような患者に適していると考えられます。

  • 多剤併用で服薬管理が複雑な患者
  • 服薬アドヒアランスに問題がある患者
  • 介護施設入所者など、服薬管理を他者に依存している患者

ただし、薬価が高いことや、服薬忘れの影響が長期間に及ぶ可能性があることなどのデメリットもあります。

 

週1回製剤の登場により、患者の生活スタイルや嗜好に合わせた処方設計の選択肢が広がったと言えるでしょう。

 

DPP-4阻害薬とインクレチン関連薬の将来展望

DPP-4阻害薬は2型糖尿病治療において重要な位置を占めていますが、インクレチン関連薬としては他にGLP-1受容体作動薬も開発されています。これらの薬剤の今後の展望について考察します。

 

DPP-4阻害薬の課題と展望

  1. 長期的な心血管アウトカムへの影響