吸入薬指導加算の算定要件と点数の解説

吸入薬指導加算の算定要件と点数の解説

吸入薬指導加算の算定要件と点数

吸入薬指導加算の基本情報
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点数

30点(3月に1回まで算定可能)

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対象患者

喘息または慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者

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必要な指導ツール

文書および練習用吸入器等

吸入薬指導加算とは?2020年4月改定で新設された加算

吸入薬指導加算は、2020年4月の診療報酬改定で新設された薬剤服用歴管理指導料の加算です。喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者に対して、吸入薬の適切な使用方法を指導することで治療効果の向上や副作用の回避につなげることを目的としています。

 

この加算は、薬剤師の対人業務を評価する流れの一環として新設されました。医師が吸入薬を選択し、薬剤師が適切な使用方法を指導するという医薬連携の強化にもつながっています。

 

吸入薬指導加算の点数は30点で、算定頻度は3月に1回までと定められています。ただし、患者に対して他の吸入薬が処方された場合で、別途必要な吸入指導を行った場合には、前回の算定から3月以内でも算定することができます。

 

吸入薬指導加算の算定要件と必要な文書の準備

吸入薬指導加算を算定するためには、以下の要件を満たす必要があります。

 

  1. 対象患者:喘息または慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者であり、吸入薬の投薬が行われていること
  2. 指導の求め:以下のいずれかに該当すること
    • 保険医療機関(医師)からの求めがあった場合
    • 患者若しくはその家族等からの求めがあった場合
    • 処方医の了承を得た場合
  3. 患者の同意:指導を行う前に患者の同意を得ること
  4. 指導方法:文書および練習用吸入器等を用いて指導を行うこと
  5. 情報提供:保険医療機関に必要な情報を文書により提供すること(お薬手帳による情報提供でも可)

特に指導に使用する文書については、吸入薬の使用方法や注意点を記載した資料を準備しておくことが重要です。また、練習用吸入器は各メーカーから提供されているものを活用するとよいでしょう。

 

情報提供については、吸入指導の内容や患者の吸入手技の理解度などを記載した文書を作成し、医療機関に提供します。お薬手帳に記載する場合は、患者に次回受診時に医師に提示するよう伝えましょう。

 

吸入薬指導加算の対象となる医薬品と練習用吸入器の使い方

吸入薬指導加算の対象となる医薬品は、喘息やCOPDの治療に使用される吸入薬全般です。代表的な吸入薬とその特徴を紹介します。

 

1. アドエア ディスカス

2. シムビコート タービュヘイラー

3. レルベア エリプタ

4. フルタイド エアゾール

  • 主成分:フルチカゾンプロピオン酸エステル
  • 使用方法:よく振ってから使用、吸入後は3?4秒息を止め、うがいが必要

5. スピリーバ レスピマット

  • 主成分:チオトロピウム臭化物水和物
  • 使用方法:透明ケースを回してキャップを開け、噴射ボタンを押しながら吸入

これらの吸入薬は使用方法が異なるため、患者ごとに適切な指導が必要です。練習用吸入器を用いて実際に操作してもらいながら指導することで、患者の理解度を高めることができます。

 

吸入薬指導加算の算定タイミングと医師への情報提供方法

吸入薬指導加算の算定タイミングについては、患者への指導を行ったタイミングで算定することが可能です。医療機関への情報提供後や患者が次回医療機関を受診した後でなければ算定できないわけではありません。

 

ただし、医療機関への情報提供は速やかに行うことが重要です。情報提供の方法としては、以下の2つがあります。

 

  1. 文書による情報提供:吸入指導の内容や患者の吸入手技の理解度などを記載した文書を作成し、医療機関に提供する
  2. お薬手帳への記載:お薬手帳に吸入指導の内容を記載し、患者に次回受診時に医師に提示するよう伝える

お薬手帳に記載する場合は、以下の内容を含めるとよいでしょう。

 

  • 指導日
  • 指導した吸入薬の名称
  • 指導内容(吸入手技の確認結果など)
  • 患者の理解度や問題点
  • 今後の指導計画

医療機関への情報提供は、吸入薬による治療効果の向上や副作用の回避につながる重要な役割を担っています。医師と薬剤師が連携して患者をサポートすることで、より効果的な治療が可能になります。

 

吸入薬指導加算の算定件数を増やすための薬剤師の工夫

吸入薬指導加算は30点と決して高い点数ではありませんが、地域支援体制加算の実績要件の一つである「服薬情報等提供料」の実績件数に含めることができるため、薬局経営の観点からも重要な加算です。算定件数を増やすためには、以下のような工夫が効果的です。

 

1. 医師との連携強化
医師に吸入薬指導加算の意義を説明し、吸入薬が処方された患者に対する指導の依頼をしてもらうよう働きかけましょう。定期的に医療機関を訪問し、顔の見える関係を構築することが重要です。

 

2. 患者への声かけの徹底
吸入薬が処方されている患者に対して、積極的に吸入方法の確認や指導の必要性について声かけを行いましょう。特に初回処方時や処方変更時には重点的に声かけを行うことが効果的です。

 

3. 指導ツールの充実
各種吸入薬の練習用吸入器やわかりやすい説明資料を準備しておくことで、スムーズな指導が可能になります。メーカーから提供されている資材を活用するとよいでしょう。

 

4. 指導記録の効率化
吸入指導の内容や患者の理解度を効率的に記録するためのテンプレートを作成しておくと、業務の効率化につながります。電子薬歴システムを活用して、過去の指導履歴を簡単に確認できるようにしておくことも重要です。

 

5. スタッフ教育の徹底
薬局スタッフ全員が吸入薬指導加算の算定要件や指導方法を理解していることが重要です。定期的な勉強会を開催し、スタッフのスキルアップを図りましょう。

 

これらの工夫を実践することで、吸入薬指導加算の算定件数を増やすだけでなく、患者の治療効果の向上にも貢献することができます。

 

吸入薬指導加算と他の加算との関係性と注意点

吸入薬指導加算を算定する際には、他の加算との関係性や注意点についても理解しておく必要があります。

 

1. かかりつけ薬剤指導料との関係
かかりつけ薬剤指導料を算定している患者に対しては、吸入薬指導加算を算定することができません。これは、かかりつけ薬剤指導料にすでに包括されているためです。かかりつけ薬剤師以外が対応する場合でも算定できないので注意が必要です。

 

2. 服薬情報等提供料との関係
吸入薬指導加算を算定した場合、同一月内に服薬情報等提供料を算定することはできません。ただし、吸入薬指導加算の算定実績は、地域支援体制加算の実績要件である服薬情報等提供料の実績件数に含めることができます。

 

3. 3か月ルールの例外
吸入薬指導加算は原則として3か月に1回の算定ですが、患者に対して他の吸入薬が処方された場合で、別途必要な吸入指導を行った場合には、前回の算定から3か月以内でも算定することができます。例えば、ディスカス製剤からエリプタ製剤に変更になった場合などが該当します。

 

4. 算定漏れの防止
吸入薬指導加算は算定要件を満たしていても算定漏れが発生しやすい加算の一つです。電子薬歴システムのアラート機能を活用するなど、算定漏れを防止する仕組みを構築しておくことが重要です。

 

5. 指導の質の担保
吸入薬指導加算の算定件数を増やすことも重要ですが、指導の質を担保することがより重要です。日本アレルギー学会が作成する「アレルギー総合ガイドライン」等を参照して、エビデンスに基づいた指導を心がけましょう。

 

これらの点に注意しながら、患者の治療効果の向上に貢献する質の高い吸入指導を提供することが、薬剤師の重要な役割です。

 

吸入薬指導加算は、薬剤師の専門性を活かした対人業務の一つとして、今後もその重要性が高まっていくことが予想されます。患者の治療効果の向上と薬局経営の両面から、積極的に取り組んでいくことをおすすめします。