ビグアナイド系薬剤 一覧と特徴 糖尿病治療薬の効果

ビグアナイド系薬剤 一覧と特徴 糖尿病治療薬の効果

ビグアナイド系薬剤 一覧と特徴

ビグアナイド系薬剤の基本情報
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歴史ある糖尿病治療薬

1960年代から使用されている歴史ある薬剤で、現在でも2型糖尿病治療の第一選択薬として広く使用されています。

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主な作用機序

主に肝臓での糖新生抑制、インスリン抵抗性の改善、消化管からの糖吸収抑制などの作用により血糖値を下げます。

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安全性と注意点

単独使用では低血糖リスクが低い一方、乳酸アシドーシスという重篤な副作用に注意が必要です。

ビグアナイド系薬剤の種類と商品名一覧

ビグアナイド系薬剤は、2型糖尿病治療において広く使用されている経口血糖降下薬です。日本で使用されているビグアナイド系薬剤は主に「メトホルミン」と「ブホルミン」の2種類があります。

 

メトホルミン製剤の主な商品名と薬価は以下の通りです。

商品名(製造販売元) 規格 薬価(2025年3月時点)
グリコラン(日本新薬) 250mg 9.8円/錠
メトグルコ(住友ファーマ) 250mg(先発品) 10.1円/錠
メトグルコ(住友ファーマ) 500mg(先発品) 10.1円/錠
メトホルミン塩酸塩(各ジェネリックメーカー) 250mg(後発品) 約10.1円/錠
メトホルミン塩酸塩(各ジェネリックメーカー) 500mg(後発品) 約10.1円/錠

ブホルミン製剤としては、ジベトス錠50mg(日医工)が後発品として9.8円/錠で販売されています。

 

メトホルミンの後発品は多数のメーカーから発売されており、主な製造販売元には三和化学研究所、東和薬品、トーアエイヨー、日本ジェネリック、ニプロ、第一三共エスファ、辰巳化学、日医工、住友ファーマプロモ、Meiji Seikaファルマ、ヴィアトリス・ヘルスケア、シオノケミカルなどがあります。

 

ビグアナイド系薬剤は比較的安価であり、長い使用実績と豊富なエビデンスを持つことから、費用対効果に優れた糖尿病治療薬として位置づけられています。

 

ビグアナイド系薬剤の作用機序と血糖降下効果

ビグアナイド系薬剤は、インスリン分泌を促進するのではなく、インスリン抵抗性を改善することで血糖値を下げる薬剤です。その作用機序は複数のメカニズムが関与しています。

 

  1. 肝臓での糖新生抑制

    ビグアナイド系薬剤の主要な作用点は肝臓です。肝臓では乳酸などから糖が作られる「糖新生」という過程がありますが、ビグアナイド系薬剤はこの過程を抑制することで血糖値の上昇を防ぎます。

     

  2. 細胞内エネルギー代謝への影響

    メトホルミンは細胞内のミトコンドリアに作用し、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化させます。これにより細胞内のエネルギーバランスが変化し、糖代謝が促進されます。

     

  3. 消化管からの糖吸収抑制

    食事から摂取した糖の腸管からの吸収を緩やかにすることで、食後の急激な血糖上昇を抑制します。

     

  4. 末梢組織でのインスリン感受性改善

    筋肉などの末梢組織におけるインスリンの働きを強め、糖の取り込みを促進します。

     

  5. 脂質代謝への好影響

    中性脂肪やコレステロールの合成を抑制する効果もあり、脂質異常症の改善にも寄与します。

     

これらの複合的な作用により、ビグアナイド系薬剤は空腹時血糖値と食後血糖値の両方を改善します。HbA1c(ヘモグロビンA1c)の低下効果は約0.5?1.5%程度とされており、単剤でも十分な血糖降下効果が期待できます。

 

また、他の糖尿病治療薬と異なり、体重増加を引き起こしにくいという特徴があります。むしろ軽度の体重減少効果が報告されており、肥満を伴う2型糖尿病患者に特に有用とされています。

 

ビグアナイド系薬剤の副作用と乳酸アシドーシスのリスク

ビグアナイド系薬剤は効果的な糖尿病治療薬である一方、いくつかの副作用やリスクがあります。特に注意すべき副作用について解説します。

 

一般的な副作用

  • 消化器症状:下痢、悪心、嘔吐、腹部膨満感、食欲不振
  • 金属味:口の中に金属的な味を感じる
  • ビタミンB12欠乏:長期服用によりビタミンB12の吸収が阻害され、欠乏症を引き起こすことがある

これらの副作用は、服用開始時に多く見られますが、多くの場合は時間とともに軽減します。食後に服用する、少量から開始して徐々に増量するなどの工夫で軽減できることが多いです。

 

乳酸アシドーシス
ビグアナイド系薬剤の最も重篤な副作用として「乳酸アシドーシス」があります。これは血液中の乳酸が異常に増加し、血液が酸性に傾く状態です。

 

乳酸アシドーシスの症状。

  • 吐き気、嘔吐
  • 腹痛
  • 筋肉痛
  • 倦怠感
  • 呼吸困難
  • 意識障害

発生頻度は非常に低いものの(10万人あたり年間3?10例程度)、発症すると死亡率が高い(約50%)ため、以下のような患者さんにはビグアナイド系薬剤の使用を避けるか、慎重に使用する必要があります。

  • 腎機能障害のある患者(クレアチニンクリアランス30mL/分未満)
  • 肝機能障害のある患者
  • 心不全、呼吸不全のある患者
  • 脱水状態、ショック、敗血症の患者
  • 過度のアルコール摂取者
  • 75歳以上の高齢者(新規投与は推奨されていない)

また、ヨード造影剤を用いる検査を受ける場合は、検査前から造影剤投与後48時間までビグアナイド系薬剤の服用を中止する必要があります。これは造影剤による腎機能低下が乳酸アシドーシスのリスクを高めるためです。

 

ビグアナイド系薬剤と2型糖尿病治療ガイドラインの位置づけ

ビグアナイド系薬剤、特にメトホルミンは、世界中の糖尿病診療ガイドラインにおいて重要な位置を占めています。日本糖尿病学会の「糖尿病治療ガイド」や米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)の合同ステートメントでも、メトホルミンは2型糖尿病の第一選択薬として推奨されています。

 

日本糖尿病学会のガイドラインにおける位置づけ
日本糖尿病学会の治療ガイドでは、2型糖尿病の薬物療法開始時に、患者の病態に応じた薬剤選択を推奨しています。特に以下のような場合にビグアナイド系薬剤が推奨されています。

  • 肥満を伴う2型糖尿病患者
  • インスリン抵抗性が主体と考えられる患者
  • 若年発症の2型糖尿病患者
  • 心血管疾患リスクの高い患者

国際的なガイドラインでの評価
ADA/EASDの合同ステートメントでは、メトホルミンは禁忌がなければ全ての2型糖尿病患者の初期治療薬として推奨されています。その理由として。

  • 長期的な安全性と有効性のエビデンス
  • 低コスト
  • 心血管イベント予防効果
  • 体重増加を引き起こさない特性
  • 低血糖リスクの低さ

などが挙げられています。

 

UKPDS研究の長期的影響
英国前向き糖尿病研究(UKPDS)では、メトホルミンによる治療が、肥満を伴う2型糖尿病患者において、糖尿病関連合併症や総死亡率を有意に減少させることが示されました。この研究は、メトホルミンが単に血糖値を下げるだけでなく、長期的な予後改善にも寄与することを示した重要なエビデンスとなっています。

 

最新の治療アプローチにおける位置づけ
近年では、SGLT2阻害薬GLP-1受容体作動薬など、心血管イベントや腎保護効果を持つ新しい糖尿病治療薬が登場していますが、それでもメトホルミンは基本薬として位置づけられています。多くの場合、これらの新薬はメトホルミンに追加する形で使用されることが推奨されています。

 

ビグアナイド系薬剤は、その長い歴史と豊富なエビデンス、そして費用対効果の高さから、今後も2型糖尿病治療の中心的な役割を担い続けると考えられています。

 

ビグアナイド系薬剤の高齢者への使用と最新の注意点

高齢化社会の進行に伴い、高齢糖尿病患者の増加が顕著となっています。ビグアナイド系薬剤の高齢者への使用については、特別な配慮が必要です。

 

高齢者使用に関する基本的な考え方
日本糖尿病学会の「高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会」の提言では、75歳以上の高齢者に対するビグアナイド系薬剤の新規投与は原則として推奨されていません。これは加齢に伴う腎機能低下や多臓器不全のリスク増加により、乳酸アシドーシスの危険性が高まるためです。

 

ただし、すでに使用中で良好な血糖コントロールが得られている場合は、腎機能や全身状態に注意しながら継続することが可能とされています。

 

高齢者におけるビグアナイド系薬剤使用時の注意点

  1. 定期的な腎機能評価

    高齢者では腎機能が低下していることが多いため、eGFR(推算糸球体濾過量)を定期的に測定し、30mL/分/1.73m2未満になった場合は投与を中止します。

     

  2. 少量からの開始

    高齢者では副作用が出やすいため、通常よりも少ない用量(例:メトホルミン250mg/日)から開始し、慎重に増量します。

     

  3. 脱水リスクへの注意

    高齢者は脱水に陥りやすく、脱水は乳酸アシドーシスのリスク因子となります。十分な水分摂取を指導し、発熱、下痢、嘔吐などの際には一時的に服用を中止するよう指導します。

     

  4. ポリファーマシーへの配慮

    高齢者では複数の薬剤を服用していることが多く、薬物相互作用に注意が必要です。特にヨード造影剤使用時の休薬や、腎機能に影響を与える薬剤との併用には注意が必要です。

     

  5. 低血糖リスクの評価

    ビグアナイド系薬剤単独では低血糖リスクは低いものの、SU薬やインスリンとの併用時には低血糖に注意が必要です。高齢者では低血糖の症状が非定型的であったり、認知機能に影響を与えたりすることがあります。

     

最新の研究知見
近年の研究では、適切に管理された条件下でのメトホルミン使用は、従来考えられていたよりも安全である可能性が示唆されています。米国糖尿病学会のガイドラインでは、eGFR 30-45 mL/分/1.73m2の患者でも、腎機能を頻回にモニタリングすることを条件に、減量投与が可能とされています。

 

また、メトホルミンには抗老化作用や認知症予防効果の可能性も示唆されており、高齢者における新たな有用性についての研究も進んでいます。

 

日本糖尿病学会:高齢者糖尿病の血糖コントロール目標についての詳細情報
ビグアナイド系薬剤は高齢者においても有用な治療選択肢となりますが、個々の患者の状態を慎重に評価し、適切な用量調整とモニタリングを行うことが重要です。特に75歳以上の患者さんへの新規投与は慎重に検討し、腎機能や全身状態に十分注意を払う必要があります。