腎尿細管性アシドーシスの症状と原因及び治療法

腎尿細管性アシドーシスの症状と原因及び治療法

腎尿細管性アシドーシスの症状と原因

腎尿細管性アシドーシス(RTA)の基本情報
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定義

腎臓の尿細管機能異常により血液が酸性に傾く代謝性アシドーシスを引き起こす疾患

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主な病型

T型(遠位型)、U型(近位型)、W型(高K性遠位型)の3つに分類される

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特徴的な症状

多飲多尿、筋力低下、乳幼児期の成長障害、電解質異常など

腎尿細管性アシドーシス(Renal Tubular Acidosis:RTA)は、腎臓の尿細管機能に異常が生じることで、血液が酸性に傾く代謝性アシドーシスを引き起こす疾患です。この疾患は腎機能低下によるものではなく、尿細管の特定の機能障害によって発症します。腎臓は通常、体内の酸塩基平衡を維持する重要な役割を担っていますが、RTAではこの調節機能が障害されます。

 

RTAは主に3つの病型に分類されます。T型(遠位尿細管性アシドーシス)、U型(近位尿細管性アシドーシス)、W型(高カリウム血症を伴う遠位尿細管性アシドーシス)です。それぞれ発症メカニズムや症状、検査所見が異なるため、正確な診断が治療において重要となります。

 

腎尿細管性アシドーシスの主な症状と特徴

腎尿細管性アシドーシスの症状は、病型によって異なる特徴を示しますが、共通する主な症状としては以下のようなものがあります。

  1. 多飲多尿:尿濃縮力の異常により、水分摂取量が増え、尿量も増加します。

     

  2. 筋力低下:特に四肢の近位筋に力が入りにくくなり、歩行障害などを引き起こすことがあります。

     

  3. 乳幼児期の成長障害:特に遺伝性のT型RTAでは、哺乳不良や体重増加不良がみられます。

     

  4. 電解質異常:T型・U型では低カリウム血症、W型では高カリウム血症が特徴的です。

     

また、アシドーシスそのものによる症状として、過換気、努力性呼吸、呼吸困難、食欲不振、悪心・嘔吐、頭痛などが現れることがあります。

 

T型RTAの患者さんでは、腎石灰化や腎結石が発生するリスクが高く、結石が尿管に詰まると激痛を伴うこともあります。また、長期間治療されないと、くる病や骨軟化症などの骨代謝異常を引き起こす可能性もあります。

 

腎尿細管性アシドーシスの病型別の原因と病態

RTAの各病型には、それぞれ特徴的な病態生理があります。
T型(遠位尿細管性アシドーシス)

  • 集合管でのH+(水素イオン)排泄障害が基本病態です。

     

  • 尿の酸性化障害が特徴で、アシドーシス存在下でも尿pHが5.5以上となります。

     

  • 低カリウム血症を伴い、腎結石や腎石灰化が生じやすいです。

     

  • 遺伝性のものと後天性(シェーグレン症候群など)のものがあります。

     

U型(近位尿細管性アシドーシス)

  • 近位尿細管でのHCO3-(重炭酸イオン)再吸収障害が基本病態です。

     

  • アシドーシス存在下で尿pHは5.5未満と正常な酸性化能を示します。

     

  • 低カリウム血症を伴いますが、T型と異なり腎結石は通常みられません。

     

  • ファンコーニ症候群に伴うことが多く、その場合は低リン血症やアミノ酸尿なども認められます。

     

W型(高K性遠位型)

  • アルドステロンの欠乏または抵抗性が基本病態です。

     

  • 高カリウム血症を特徴とし、尿pHは5.5未満です。

     

  • 偽性低アルドステロン症や糖尿病性腎症などでみられます。

     

腎尿細管性アシドーシスの発症要因と遺伝的背景

腎尿細管性アシドーシスの発症要因は多岐にわたります。大きく分けて先天性(遺伝性)と後天性に分類できます。

 

遺伝性の要因

  • T型RTAでは、H+-ATPaseをコードするATP6V1B1やATP6V0A4遺伝子の変異が知られています。これらの遺伝子変異は常染色体劣性遺伝形式をとり、難聴を伴うこともあります。

     

  • U型RTAは、他の遺伝性疾患に伴って発症することがあります。例えば、ロウ症候群(OCRL1遺伝子変異)、ミトコンドリア異常症、シスチン症(CTNS遺伝子変異)などです。

     

  • W型RTAには、偽性低アルドステロン症T型(鉱質コルチコイド受容体やENaC遺伝子の変異)やU型(WNK1/4、KLHL3、CUL3遺伝子の変異)があります。

     

後天性の要因

  • 自己免疫疾患:シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、関節リウマチなどに伴うT型RTA。

     

  • 薬剤性:アンホテリシンB、リチウム、アセタゾラミドなどの薬剤によるRTA。

     

  • 他の疾患:原発性胆汁性胆管炎、慢性活動性肝炎、サルコイドーシスなど。

     

  • 重度の下痢による重炭酸イオンの喪失も代謝性アシドーシスの一因となります。

     

遺伝性RTAは比較的稀な疾患ですが、家族歴がある場合や幼少期からの症状がある場合は遺伝子検査が診断の助けとなることがあります。

 

腎尿細管性アシドーシスの診断方法と検査所見

腎尿細管性アシドーシスの診断には、以下の検査が重要です。
基本的な検査

  • 血液ガス分析:代謝性アシドーシスの確認(pH低下、HCO3-低下)
  • 血清電解質:Cl上昇、K異常(T型・U型では低K、W型では高K)
  • 尿検査:尿pH、尿中電解質、尿中クエン酸など
  • アニオンギャップ(AG)計算:AG = Na+ - (Cl- + HCO3-)

    RTAではAG正常の高Cl性代謝性アシドーシスを示します。

     

病型鑑別のための検査

  • アシドーシス存在下での尿pH測定。
    • T型:尿pH > 5.5(尿酸性化障害)
    • U型・W型:尿pH < 5.5(尿酸性化能正常)
  • アルカリ負荷試験:重炭酸ナトリウム投与後のFEHCO3-(重炭酸イオン排泄分画)測定
    • T型:FEHCO3- < 5%
    • U型:FEHCO3- > 15%
    • W型:FEHCO3- < 10%
  • 尿中クエン酸排泄量:T型では減少
  • 尿中Ca排泄量:T型では増加
  • 腎エコーまたはCT:腎結石や腎石灰化の評価(特にT型で重要)

特殊検査

  • アルドステロン・レニン測定:W型RTAの評価
  • 遺伝子検査:遺伝性RTAが疑われる場合

診断のポイントとして、アルカリ化治療開始前の尿検体採取が重要です。治療開始後は検査結果が修飾される可能性があるためです。

 

また、U型RTAでファンコーニ症候群を伴う場合は、低リン血症、ALP上昇、活性化ビタミンD低下、%TRP(尿細管リン再吸収率)低下、汎アミノ酸尿、腎性糖尿なども認められます。

 

腎尿細管性アシドーシスの薬物療法と長期管理の重要性

腎尿細管性アシドーシスの治療は、アシドーシスの是正と電解質異常の補正が基本となります。病型によって治療アプローチが異なります。
T型(遠位型)RTAの治療

  • アルカリ化剤:クエン酸カリウムまたは重炭酸ナトリウム(2-4 mmol/kg/日)
    • クエン酸カリウムは低K血症も同時に補正できる利点があります。

       

    • 目標は血清HCO3-を正常範囲(22-26 mEq/L)に維持することです。

       

  • カリウム補充:低K血症がある場合
  • 小児では成長障害予防のため、早期からの治療が重要です。

     

U型(近位型)RTAの治療

  • アルカリ化剤:クエン酸カリウムまたは重炭酸ナトリウム(10-15 mmol/kg/日)
    • T型より多量のアルカリ化剤が必要です。

       

  • カリウム補充:低K血症がある場合
  • ビタミンD・カルシウム・リン補充:ファンコーニ症候群を伴う場合。

     

  • チアジド系利尿薬:近位尿細管でのHCO3-再吸収を促進するために使用されることがあります。

     

W型(高K性遠位型)RTAの治療

  • 高K血症の是正:カリウム制限食、イオン交換樹脂(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)
  • 原因薬剤の中止:薬剤性の場合
  • フルドロコルチゾン:アルドステロン欠乏がある場合
  • アルカリ化剤:必要に応じて少量(2 mmol/kg/日程度)。

     

長期管理の重要性

  • 定期的な血液検査:電解質、血液ガス、腎機能のモニタリング
  • 成長発達の評価:小児の場合
  • 腎結石・腎石灰化のフォローアップ:特にT型RTAでは定期的な画像検査が必要です。

     

  • 薬剤アドヒアランスの確認:長期的な治療継続が重要です。

     

適切な治療により、多くの症状は改善しますが、腎石灰化や難聴などは根治が難しい場合があります。そのため、早期発見・早期治療と長期的なフォローアップが重要です。

 

また、遺伝性RTAの場合は、遺伝カウンセリングも考慮すべきです。子どもへの遺伝リスクや家族のスクリーニングについて適切な情報提供が必要となります。

 

薬剤師として患者さんに対しては、服薬の重要性、副作用のモニタリング、食事制限(特にW型RTAでのカリウム制限)についての指導が求められます。また、処方薬がRTAを誘発・悪化させる可能性がある場合は、医師と連携して適切な対応を行うことが重要です。