調剤後薬剤管理指導料1の算定と糖尿病患者の薬学的管理

調剤後薬剤管理指導料1の算定と糖尿病患者の薬学的管理

調剤後薬剤管理指導料1の算定について

調剤後薬剤管理指導料1の概要
??
点数

60点/月1回まで算定可能

??
対象患者

新たに糖尿病用剤が処方された患者または糖尿病用剤の用法・用量の変更があった患者

??
算定条件

地域支援体制加算の届出を行っている薬局であること

調剤後薬剤管理指導料1の算定要件と2024年度改定のポイント

調剤後薬剤管理指導料1は、2024年度の診療報酬改定で大きく変更されました。これまでは「調剤後薬剤管理指導加算」として服薬管理指導料の加算項目でしたが、今回の改定で独立した薬学管理料として新設されました。

 

算定の基本要件は以下の通りです。

  1. 地域支援体制加算の届出を行っている薬局であること
  2. 対象は「新たに糖尿病用剤が処方された患者」または「糖尿病用剤の用法・用量の変更があった患者」
  3. 調剤後に電話等で服薬状況や副作用の有無を確認すること(調剤と同日は不可)
  4. 必要な薬学的管理指導を行うこと
  5. その結果を医療機関に文書で情報提供すること

2024年度改定での主な変更点は以下の通りです。

これらの変更により、より多くの糖尿病患者に対してフォローアップが可能となり、薬剤師の介入機会が増えました。

 

調剤後薬剤管理指導料1の対象となる糖尿病用剤と患者選定

調剤後薬剤管理指導料1の対象となる糖尿病用剤は、2024年度改定により大幅に拡大されました。具体的には以下の薬剤が含まれます。

  • インスリン製剤
  • スルホニル尿素系製剤(SU剤)
  • ビグアナイド系薬剤(メトホルミン等)
  • チアゾリジン系薬剤(ピオグリタゾン等)
  • DPP-4阻害薬(シタグリプチン等)
  • SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン等)
  • GLP-1受容体作動薬(リラグルチド等)
  • α-グルコシダーゼ阻害薬(ボグリボース等)
  • 速効型インスリン分泌促進薬(ナテグリニド等)

対象患者の選定では、以下の2つのケースを把握することが重要です。

  1. 新たに糖尿病用剤が処方された患者
    • 初めて糖尿病治療を開始する患者
    • 既存の治療に新たな種類の糖尿病薬が追加された患者
  2. 糖尿病用剤の用法・用量の変更があった患者
    • 服用量の増減があった患者
    • 服用タイミングが変更された患者

患者選定を効率的に行うためには、薬歴管理システムを活用し、糖尿病用剤の処方変更を自動的に抽出できるようにすることが有効です。また、処方箋受付時に糖尿病用剤の変更がないかを確認する習慣をつけることも大切です。

 

調剤後薬剤管理指導料1の算定時のフォローアップ方法と実務のポイント

調剤後薬剤管理指導料1を算定するためのフォローアップは、以下の手順で実施します。

  1. 事前準備
    • 患者への説明と同意取得
    • フォローアップの日程調整
    • 確認すべき項目のリスト作成
  2. 電話等によるフォローアップ
    • 服薬状況の確認(飲み忘れはないか、指示通りに服用できているか)
    • 副作用の有無の確認(低血糖症状、消化器症状、浮腫など)
    • 血糖値の変動状況(自己測定値の確認)
    • 生活習慣の変化(食事・運動習慣など)
  3. 情報提供文書の作成
    • 確認した内容の要約
    • 薬学的評価と問題点の抽出
    • 必要に応じた処方提案

実務上のポイントとしては以下が重要です。

  • フォローアップは調剤日と同日に行うと算定できないため、数日後に計画する
  • 一方的な情報発信(一斉メール送信など)では算定要件を満たさない
  • 患者ごとの状況に応じた個別対応が必要
  • 医療機関への情報提供は単なる報告ではなく、薬学的評価に基づく内容にする
  • 情報提供後、次回来局時に算定する(情報提供先の医療機関からの処方箋でなくても可)

効率的な業務運営のために、フォローアップ対象患者リストの作成や、確認項目のテンプレート化を行うことをお勧めします。

 

調剤後薬剤管理指導料1の算定できないケースと注意点

調剤後薬剤管理指導料1を算定する際には、以下のケースでは算定できないことに注意が必要です。

  1. 調剤と同日に電話確認を行った場合
    • 調剤から一定期間経過することで、副作用や症状変化を適切に評価できるため、同日の確認は算定対象外となっています
    • 最低でも翌日以降に確認を行う必要があります
  2. 同時算定できない薬学管理料がある場合
    • 服薬情報等提供料との併算定は不可
    • 特別調剤基本料を算定している場合は原則算定不可(一部例外あり)
  3. 地域支援体制加算の届出をしていない薬局の場合
    • 調剤後薬剤管理指導料の算定には地域支援体制加算の届出が前提条件
  4. 一方的な情報発信のみの場合
    • 一斉メール送信など、個別対応を行わない場合は算定不可
    • 患者との双方向のコミュニケーションが必要
  5. 医療機関への情報提供を行わなかった場合
    • 電話確認のみでは算定できず、医療機関への文書による情報提供が必須

また、算定にあたっては以下の点にも注意が必要です。

  • 患者の同意を得ることが必要(医師の指示または患者の求めに応じて実施)
  • 情報提供文書は単なる状況報告ではなく、薬学的評価や必要に応じた処方提案を含める
  • 算定は情報提供後、次回の来局時(情報提供先の医療機関からの処方箋でなくてもよい)

これらの注意点を踏まえ、算定漏れを防ぐためのチェックリストを作成しておくことをお勧めします。

 

調剤後薬剤管理指導料1の算定と薬局経営への影響

調剤後薬剤管理指導料1の算定は、薬局経営にも大きな影響を与えます。60点(600円)/月という点数は、継続的に算定することで安定した収益源となり得ます。

 

経営面でのメリット:

  1. 収益向上
    • 月1回60点(600円)の算定が可能
    • 対象患者数が増加することで、安定した収益源に
    • 例:糖尿病患者50人に対して月1回算定した場合、月額30,000円の増収
  2. 患者満足度の向上
    • 継続的なフォローアップによる患者との信頼関係構築
    • 服薬アドヒアランスの向上による治療効果の改善
    • 来局頻度の増加や処方箋応需率の向上につながる可能性
  3. 医療機関との連携強化
    • 定期的な情報提供による医師との関係構築
    • 薬学的な処方提案の機会増加
    • 地域における薬局の存在価値の向上

効率的な算定のための取り組み:

  1. 業務フローの整備
    • 対象患者の抽出システムの構築
    • フォローアップスケジュール管理の仕組み作り
    • 情報提供文書のテンプレート作成
  2. スタッフ教育
    • 算定要件の周知徹底
    • 効果的な電話フォローアップの研修
    • 薬学的評価能力の向上
  3. ICTの活用
    • 患者情報管理システムの活用
    • リマインド機能付きカレンダーの利用
    • 情報提供文書の電子化

将来的には、調剤後薬剤管理指導料の対象疾患が拡大される可能性も考えられます。実際に2024年度改定では慢性心不全患者も対象となりました。今後は認知症など他の疾患も対象になる可能性や、地域支援体制加算の要件に組み込まれる可能性も視野に入れて、フォローアップ体制を整備していくことが重要です。

 

また、調剤後の継続的な関わりは、対物業務から対人業務へのシフトを進める薬局薬剤師の役割変化にも合致しており、今後の薬局経営の方向性を示すものとも言えるでしょう。

 

調剤後薬剤管理指導料の算定を通じて、患者のQOL向上と薬局経営の安定化の両立を図ることが可能です。積極的に取り組むことで、「かかりつけ薬剤師・薬局」としての機能を高め、地域医療における存在価値を高めることができるでしょう。

 

厚生労働省:令和6年度診療報酬改定の概要(調剤)
日本薬剤師会:令和6年度診療報酬改定における調剤報酬等に関するQ&A